「給食だより」作成のコツ

「給食だより」作成のコツ

こんにちは。こどもの食事研究所 所長の佐橋ゆかりです。

保育園では、おたよりの作成時に
・健康・栄養に関する知識にかたよる
・園の活動報告・子どもの姿にかたよる
・園の給食の内容のお知らせにかたよる
といった悩みがあるようです。

今回は、Green、Kreuterらによって開発されたプリシード・プロシードモデルPRECEDE-PROCEED(PPモデル)の一部を使って、給食だよりの作成について考えます。

このモデルは、先進国のほとんどの保健政策で採用されているモデルになっています。日本の厚生労働省も例外ではなく、「健康日本21」のモデルの下敷きになった考え方です。

PPモデルは食育プログラムを立案する上でとても便利です。

▼知識や信念、子どもが獲得しているスキルは、子どもがどんな食行動を選択するかに大きな影響を与えます。食育プログラムでは正しい知識や信念を形成するためのプログラムが必要です。←前提要因

▼子どもの親や保育士などまわりの人たちの応援や子どもに対する賞賛などによっても立案した食育プログラムの成否が左右されます。まわりの大人の関わりを望ましいものにしていくことも食育プログラムを立案する上で重要です。←強化要因

▼子どもは実際の食行動を経験することによって食行動を学んでいきます。また繰り返しの食事によって嗜好性も影響を受けます。食育プログラムが健全であるためには、望ましい食事、望ましいかかわる場が提供されることが必要です。←実現要因

さらに健康増進政策によっても食育プログラムの位置づけは変わります。←規則や政策

このように多くの要因が、食育プログラムの立案にかかわっています。その複雑な関わりを整理し、モデル化したものがPPモデルです。このモデルでは、行動に影響を与える要因を3つ(前提要因・強化要因・実現要因)にまとめて考えています。

PPモデルに従って食育プログラムを立案していくと、それまで偏っていたり、欠落していた領域がはっきりと見えてきます。

今回は、給食だより「毎日の食事を豊かにする『乾物』」を例として取り上げます。(2020年2月のわんぱくだより)

 

■「乾物を食べる」という行動を決定づける3つの要因

<前提要因(Predisposing Factors)>

前提要因とは、行動を引き起こす「きっかけ」や「誘因」となる要因で、行動を動機付けし、行動のための理論を提供するもので、 知識、態度、価値観、既存のスキル、望ましい行動の変化に対する自己効力感、文化的信念を含みます。

 

2月のおたよりでは「乾物を食べること」の前提要因として知識を提供しています。

まず、家庭で常備したい乾物と、その活用法について。

そして、乾物の良い所として
・価格が年中安定していこと
・常温保存できること(非常食にもなること)
・簡便な製品が販売されていること
などを具体的にお伝えします。

乾物の栄養については、「大根」と「切り干し大根」を比較して、干すことで栄養量が増えることを知らせています。

なんと!切り干し大根は、生の大根に比べて、鉄分が3倍、カルシウムが4倍、食物繊維が3倍。栄養豊富な切り干し大根は、給食でもみそ汁に入れたり、ごはんに入れたりと便利に使っています。家庭でも十分に活用してほしいことを伝えています。

 

<実現要因(Enabling Factors)>

実現要因とは、健康な行動を実現しやすくする要因です。個人の特性をもとに実行させるもので、それらの要因は、利用できる資源、アクセスの容易さとアクセススキル、物理的要因、支援的政策、援助、サービスを含みます。

 

2月のおたよりでは、「乾物の摂取量を増やす」ための具体的な方法として、子どもが食べ慣れている料理に「ちょい足し」ができるようなレシピをお伝えしています。

そして、購入しやすさ、使いやすさに配慮して、どのよう形状で販売されているか。また、製品パッケージを見ることで、最適な戻し方や使い方がわかることなどを伝えています。

企業は、昔ながらの日本の食品を使い続けてもらうために、
・時短で、手間なく調理
・使う分ずつパッケージ
・レシピをつける
などの商品の研究、開発を続けています。このような企業努力は、健康な食生活を継続する実現要因のひとつです。

 

<強化要因>

行動が開始された後の活動で、報酬や インセンティブを与えることで、行動の繰り返しや継続を奨励します。社会的支援、ほめ言葉、元気づけ、経済的な見返り、社会規範の変化はいずれも強化要因と考えられます。

2月のおたよりでは、子どもたちが“おいしそう”に食べているイラストを入れました。

保育園では、実際に子どもたちが乾物をどのように食べているのか。そして、乾物を使った料理を食べた時の子どもの反応などを伝えて頂きたいです。

ある園では、給食試食会の時には、必ず乾物を使った料理を献立に入れているそうです。そして、普段、給食でよく使う乾物を展示しているとのこと。乾燥なので、展示も簡単ですね。

保護者は、実際に試食会で食べることで、ひじき等の食べ方、子どもたちがおいしく食べていることを知ります。

そして、乾物の展示は、保護者通しの会話のきっかけづくりになります。これは、まさに「強化要因」。保護者通しが、お互いに、毎日の食事の苦労を共有し、励ましあうことつながります。

 

■最後に

行動変容に影響を与える要因を3つに分けて考えることで、子どものニーズに合わせた「給食だより」が作りやすくなります。

その一方で、要因別に考えた時に「おたより」という媒体だけで、健康行動を増やすことができないことがわかります。

給食だよりは、園の食育プラグラムの中で活用され、総合的に健康行動を評価すべきなのだと思います。

 

<まとめ>

・給食だよりは、子どもの健康行動を増やすことが目的。
・園の食育目標に合わせて作成することで効果が期待できる。
・子どもの食に関する行動は、前提要因、実現要因、強化要因という3つに影響を受けている。食育では、子どものニーズに合わせてに要因別にアプローチすることで、行動変容が期待できる。

 

<前提要因(Predisposing Factors)>
前提要因とは、行動を引き起こす「きっかけ」や「誘因」となる要因で、行動を動機付けし、行動のための理論を提供するもので、 知識、態度、価値観、既存のスキル、望ましい行動の変化に対する自己効力感、文化的信念を含みます。

<実現要因(Enabling Factors)>
実現要因とは、健康な行動を実現しやすくする要因です。個人の特性をもとに実行させるもので、それらの要因は、利用できる資源、アクセスの容易さとアクセススキル、物理的要因、支援的政策、援助、サービスを含みます。

<強化要因>
行動が開始された後の活動で、報酬や インセンティブを与えることで、行動の繰り返しや継続を奨励します。社会的支援、ほめ言葉、元気づけ、経済的な見返り、社会規範の変化はいずれも強化要因と考えられます。

 

2020年2月 わんぱくだより 2002