行事食というと、、、
「子どもたちを喜ばせるために、行事食に力を入れています!」という園があれば、
「行事食として何を作ればよいかわからない。」という給食担当者がいたり、
「手間なく、簡単に作ることができる行事食を知りたい!」といった問い合わせをいただいたり・・・。
保育園では、行事食に対して特別な思いがあります。
子どもの食事研究所でも、みなさんのご要望にお応えする形で、行事がイメージできるような料理づくりをしていますが、最近は、「これって少しおかしいのでは?」と思いはじめています。
今回は、保育園の行事食について考えます。
■行事食とは
日本には、
・普段通りの生活を送る「ケの日」
・特別な「ハレの日」
があります。
「ハレの日」には2種類あり、1つは正月のような季節ごとにめぐってくる年中行事。もうひとつは、人生のお誕生日や還暦などの人生の節目に行われる行事です。
食事については、「ケの日」は、季節の素朴な料理を味わい、特別な「ハレの日」には、「邪気などをはらい、健康長寿を願う」という思いが込められた食事をいただきます。
保育園では、「ハレの日」に頂く日本特有の伝統的な食事を、子どもたちに伝えたい!という想いから、昔から「行事食」が大切にされています。
■行事食の意義
行事食といえば、
・雛祭りに、ちらし寿司
・お正月には、黒豆や田つくり
など。
3月のこの時期は、卒園のお祝いとして、「小豆」が入った赤飯を提供する保育園が多くあります。
日本の年中行事は、厳しい自然環境の中で生き抜くために、「邪気をはらう・健康長寿を願う」という意味合いのものが多く、子どもたちは、行事に合わせて、願いが込められた食事を食べることを通して、
・日本の伝統的な行事について
・体と食べ物の関係について
・ご先祖様、神々への感謝の気持ち、命のつながり
・自然、食べ物への感謝の気持ち
等、多くのことを学びます。
しかし、近年、年中行事を大切にする家庭が減っている中で、子どもたちは、行事にちなんだ食事をたべる機会が減っています。
■行事食が「おたのしみ食」に??
息子が担任をしている小学校低学年のクラスでは、3月3日の雛祭りに出された「散らし寿司」がとても不評で、残菜がたくさん出てしまったそうです。
「すっぱい!」と言う子もいれば、「甘い!」と言う子もいたとのこと。回転ずしのお寿司は食べ慣れていますが、うま味が強い魚、味が濃い具がのっていない寿司飯はあまり食べたことがない様子だったそうです。
散らし寿司は、給食担当者にとっては、
・具を煮る
・すし飯をつくる
・混ぜる
・金糸卵をつくる
など、手間がかかる料理!せっかくの行事食が残ってしまった話を聞いて、心が痛みました。
また、ある保育園では、お祝いに!と作った「赤飯」を子どもが食べてくれなかった。という話もあります。
このように、食経験が少ない子どもに、食べ慣れていない食事を提供することは、難しい面があります。
そこで、苦肉の策で現場のみなさんが考えたのが、行事を盛り上げるための「おたのしみ食」。行事にちなんでいるかどうかが微妙な「行事食」です。
さらに、最近は、「インスタ映え」といった言葉があるように、行事の意味よりも「見た目」を重視した行事食を作っている保育園もあるようです。
■保育園の行事食・事例紹介
行事を盛り上げるような「おたのしみ食」は、子どもたちにとって行事を楽しく印象づけることに役立ちますが、本来の意味を考えると、少し違うような気がします。
ここで、私が素敵だな!と感じた保育園の事例をご紹介します。
卒園する子のために、子どもたちが「卒園祝いの給食づくり」に参加するお話です。
子どもたちのお仕事は、小豆を水に浸水すること。小豆が入った大きなボールに、子どもたちがカップ1杯ずつ、「小学校に行っても元気でがんばってね。」と願いを込めながら、水を注ぎます。
願いを込めて注いだ水は、火にかけられて真っ赤に!(子どもたちはびっくり)
先生は、「この赤い色が、悪いものを追い払ってくれること」を伝え、在園児さんの願いが込められた「お赤飯」で、卒園のお祝いします。はじめてお赤飯を食べる年少さん、未満児さんもしっかりと味わって食べてくれるそうです。
次は、人生の節目を祝う「お誕生日会」の日の給食のお話です。
お誕生日会の日は、子どもたちが大好きなカレーをアレルギーフリーで作り、誰もが安心して、楽しく食べることができるようにしているとのことです。
保育士さんも、アレルギーを気にすることなく、穏やかな雰囲気の中で、みんなで一緒に祝うことができるお誕生日カレーは、格別なおいしさで、卒園児さんからのリクエストメニューでも「カレーライス」が一番人気だそうです。
そして、お誕生日の子には、特別にデザートが提供されるとのこと。
・季節のゼリー
・プリン
・フルーツかんてん
3品の中から自分でその日に、食べたいものを給食の先生に伝えます。
給食後は、お友達に「ハッピーバースデー」を歌ってもらって、みんなが見ている中で、お誕生日の子だけが食べる特別なデザートです。
そして、デザートには、何も書いていないメッセージカードがついています。このカードは、家族に感謝を伝えるためのもので、年長さんになると自分で「ありがとう」と書いて家族に持って帰ります。
みんな自分のお誕生日会を心待ちにしているそうです。
■さいごに
子どもにとって、給食は「食べる教材」です。日々の食事では、日本の風土で育まれた豊かな食材を「食べる体験」を通して、健康な食事をおいしいと感じることができる正しい味覚と食習慣の基礎を築くことを目指します。
そして、年中行事、人生の節目の行事では、子どもたちにそれぞれ行事の意味を伝えます。
行事食というと、給食室の先生が単独でつくるもの。という感じがありますが、今回ご紹介させて頂きましたように、行事食を通して「食文化の伝承」を実践している園では、食育として保育園全体で取り組んでいます。
保育園給食では、人手、コストなど、たくさんの制約がありますが、子どもの食事研究所では、これからも保育現場での実践を共有しながら、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。