岐阜大学医学部大学院予防医学教室で学んでいた時に、海外の研究者から「日本の子どもは本当にひじきを食べているのか。」という質問がありました。
ひじきに含まれる「ヒ素」については10年ほど前に大変話題になりました。
先日、わんぱくランチユーザーが保護者から「ひじきのヒ素」について聞かれたそうです。
ヒ素による中毒には急性中毒と慢性中毒があります。急性中毒は悪心、嘔吐、下痢、腹痛、全身性の痙攣で死に至ることもあります。慢性性の中毒症状は、食欲減退、皮膚の炎症など。
今回は、ひじきの食べ方と健康被害について考えます。
■英国食品規格庁の勧告
2004年7月英国食品規格庁はひきじは無機ヒ素を多く含むので食べないようにという勧告をだしました。
健康被害としては有機ヒ素より無機ヒ素が問題。31検体について海藻類のヒ素濃度が細かく測定されました。
乾燥無機ヒ素 /kg
ひじき(n=9)77mg
あらめ(n=3) 0.3mg未満
わかめ(n=5) 0.3mg未満
こんぶ(n=7)0.3mg未満
のり (n=7)0.3mg未満
水戻し無機ヒ素/kg
ひじき(n=9)3mg
あらめ(n=3) 0.01mg未満
わかめ(n=5) 0.01mg未満
こんぶ(n=7)0.01mg未満
のり (n=7)水戻しなし
上記のとおり、ひじきは、他の海藻に比べて水で戻したとしても無機ヒ素を多く摂取することになるとのことで、英国はあえて食べないように勧告しています。
■ひじきに対しての英国の勧告に対して厚生労働省の見解
・日本人の1人あたりの海藻摂取量は14.6g
・1日あたりのひじきの摂取量は約0.6g
・体重50キロの人が毎日4.7g以上を継続的に摂取しない限り限度を超えることはない。
・バランスのよい食生活を心がければ健康上のリスクが高まることはない
■調理法が重要
ひじきは
・水でもどす→洗う
・たっぷりの水でゆでる
必要があります。
ひじき乾燥の無機ヒ素含有量は 77mg/kg。これをそのまま食べることには問題があります。
近年、保育園の調理室でスチームコンベクションオーブンが使われるようになり、「ゆで」を「蒸し」で代替することが多くなりました。
日本古来の食品を、新しい調理機器で作る方法はあまり示されていませんが、食品の特性を知って調理法を考慮する必要がありますね。
日本の「ゆで」では、たっぷりの水で食品の有害な成分を抽出して捨てることができ、ゆでた後は水で洗い流す工程もあります。
心配な点は、近年手抜き料理が流行していること。
“ひじきごはん”を作るときに、炊飯器にひじきをそのまま投入なんてことをしたら、有害物を子どもたちが摂取してしまうことになります。
■海外の研究者は“ひじき”だけでなく“のり”にも注目
のり0.3mg未満/kg
あらめ0.01mg未満/kg
わかめ0.01mg未満/kg
こんぶ0.01mg未満/kg
ひじき3mg/kgに比べれば、10分の1ですが、水で戻さず乾燥のまま食べるので、ほかの海藻よりヒ素の含有量が高くなります。
日本人は、本当にひじきやのりを食べているのか!と海外の研究者は不思議に思うようです。
■健康被害が“ない”ことが重要
ひじきやのりは日本特有の食材ですが、これによる日本国内の健康被害の報告はありません。
ここが重要です。
健康問題には、民族による違いがあります。
日本人が、今まで通りの食べ方をしていれば問題が起こらないと考えることができます。
■さいごに
食べ物情報が溢れている現代、保護者もネット情報などで、子どもの食について心配になることもあると思います。
保育園は、根拠がある正しい情報をお伝えするように心がける必要があります。
また伝統的な調理方法が継承されにくい中で、保育園が健康的な調理を家庭にお知らせしていくことも重要ですね。
同じ食材を使っても調理方法によって摂取できる栄養には大きな違いがあります。
子どもの食を担う保育園給食の役割の大きさを改めて感じます。