「園舎の中心は見える"台所"。
つながりを大切に、おいしさを発信!」
Vol.11 ひよこ保育園
Vol.11 ひよこ保育園
ひよこ保育園の始まりは、52年前にさかのぼります。保護者や地域と目指す理想が詰まった園は、徐々に輪が広がり、グループの園が2園増えました。園舎を開放した子育て支援センターや、一時保育事業にも取り組み、地域でなくてはならない存在になっています。力を入れる食育にも、栄養士・調理の先生たちの子どもへのあたたかな思いがありました。
元気な子どもたちの笑顔であふれる、地域で人気のひよこ保育園。「むしゃむしゃの森」と名付けられた、自然あふれる小高い丘にあります。春はタケノコが顔を出し、夏にはセミやカマキリ、バッタがあちこちに。秋になると散歩中にアケビやクリを発見!冬はナンテンやヤシの実でクリスマスリースを作り、冬イチゴも見つかるという、子どもたちにこの上ない環境です。
「人との関わり、つながりの中で育ってきた園です。食に関してもつながりを大事にしていて、田植えや畑づくり、イモ掘りに餅つきなど、行事はたくさん行います。保護者のお父さんたちは、餅つきに来てくれるなど、いろいろな形で手伝ってくれますし、お父さんたちの飲み会があるんですよ。在園生、OB 会のキャンプもあり、私も誘われています(笑)。卒園した子どもたちは、ひよこで食べるカレーの味が忘れられないと言ってくれます。保育参加は、その日のメニューを確認して、楽しみにして来る方も。人はしゃべりながら食べるというのが大事だなと日々感じています」と、園長の味岡珠美先生は話します。
理事長も事務長も園長も、お子さんがみな、ひよこ保育園を卒園しているのだとか。家族的なあたたかい雰囲気で、居心地のよさも園の魅力です。
「四日市市も待機児童の問題があり、思い通りに入園できない方もいます。また、遠くから通っている核家族の方も多く、夫婦で子育てをするので、必然的にお父さんの出番が多くなります。保護者同士で励まし合い、お友達づくりをしてもらえるのは、本当にうれしいですね」
親同士、親と職員のつながりで、「くう・ねる・あそぶ」という、子どもの成長の三大栄養素をたっぷり蓄えることのできる当たり前の保育が、力強く形になっています。(味岡園長先生)
「ひよこ園では、生活の中心は“食” という考えから、園舎を新設するとき、調理場が真ん中に位置するよう設計しました。調理場を“台所” と呼び、子どもの視点に合わせたカウンター越しに、調理の様子をいつでも見ることができるのです。また、台所で給食を作る職員も、子どもたちをいつでも感じられる環境です」と味岡園長先生。
食育基本法ができ、食と保育をつなぐ考えは、今さかんに言われています。新しくできる保育園では、料理場をよい場所に配置し、全面ガラス張りにするところも増えています。時代の先を行き、22年前からその考えを取り入れ、具現化していたのには驚きです。
台所のすぐ前が食堂で、囲炉裏(いろり)があり、自然と人が集まる場所にもなっています。「ひよこ園の台所は、ただ給食を提供するところではなく、人にとって食べることの大切さを考えられる場所。給食は食材を育てる人、収穫する人、配達してくれる人、調理する人がいるから食べられる。ただ食べるだけではなく、人のつながりを感じるから、心も満足できておいしいんだということを、園の中心から発信しています」
もう一つ大事にしているのが、和食の献立。日本人が昔から食べてきた、季節を意識できる食材を積極的に取り入れています。栄養士の小嵜美律代さんは、「外食や総菜で便利になった食生活ですが、季節感が失われた貧しい食事になっているように感じます。園ではなるべく薄味にして、添加物を使いません。冷凍食品や加工食品も使わず、魚も生で新鮮なものを取り入れています」と言います。
この日の献立には、地元の漁港で水揚げされたばかりの生ダコが、から揚げに。お代わりをする子たちが続出し、あっという間になくなってしまいました。「昨日、生きている状態のタコを子どもたちに見せました。ぬるっとした触感や吸盤が吸い付くことに、興味津々です。さまざまな体験を積み重ね、食を楽しんでほしい。つながりを感じられる、おいしい環境をつくることを意識していますね」。小嵜さんは給食作りに手間も愛情もおしみません。しっかりした歯ごたえのタコには、「子どもたちの咀嚼力も鍛えられますね」と、子どもへのよい影響も考えています。
また、洋食も中華もすべて和だしがベース。「いいもの、本物の味を伝えたいし、アレルギーのこともあります。だから、カレーやシチュー、八宝菜も和だし。おいしいと評判です」
「おいしさは人間関係を含めて、食べておいしいと感じること」。ひよこ保育園では。普段の生活から行事まで、おいしい思い出をつくる機会をたくさん用意しています。その一部を紹介します。
小嵜美律代さんは、鹿児島県の保育園で働いた後、結婚を機に三重県へ。1993年からひよこ保育園で働き始め、2007年にこっこ保育園(ひよこ会第2園) 開園を機に異動、2017年6月に再びひよこ保育園に。「わんぱくランチ」を立ち上げる際には貴重なアドバイスをいただき、アドムとは長いおつき合いになります。