ユーザー訪問「千草保育園」
これまでアドムでは全国3500ヶ所以上の保育園に、給食ソフト「わんぱくランチ」を提供してきました。その中には、すばらしい給食を提供されている保育園があります。そこで私たちが知り得た考え方や情報などを、おつきあいのある保育園の方々にお伝えしたらどうだろうか、きっといい影響を与え、これからの給食活動に役立つかもしれない、そんな想いからニュースレターを発行することになりました。今回ご紹介するのは、愛知県名古屋市にある「千草保育園」。ここではスチコンを最大限に有効活用し、おいしい給食を提供しています。さっそくアドムの佐橋がレポートしましょう。
調理の課題を解決する一つの近道とは?
もっとメニューを増やしたい。効率よく調理できる方法はないだろうか。日々、子どもたちにおいしい給食を提供したい保育園にとって、クリアしたい課題の一つでしょう。そんな悩みを解決する方法に、スチームコンベクションオーブンの活用があげられます。通称「スチコン」と呼ばれる、スチームコンベクションオーブン。1台で煮たり、焼いたりできるだけでなく、蒸す、炊く、炒めるといった調理ができるため、調理の現場でとても重宝されています。今や商業飲食店や病院、老人ホームなどの給食施設だけでなく、小中学校、保育園でも導入が進んでいます。
その一方で、機能を思う存分に使いこなしている現場は少ないのではないでしょうか。そこで今回は、スチコン導入の先駆者と呼べる名古屋の「千草保育園」を取材しました。どうして導入したのか、どのように活用しているのか。これまでの経験をふまえたアドバイスなど、平岩園長から貴重なお話をうかがいました。
平成15年に、スチコンを導入。
千草保育園にスチコンを導入されたのが、平成15年のことです。それはまだ、名古屋の保育園でのスチコン導入が珍しい時代でした。では、なぜどこよりも早く導入したのでしょうか。その大きな理由が、メニューのバリエーションが少なかったことにあります。「当時、私たちが考えるメニューは、煮るか焼くしかありませんでした」と語る平岩園長。それは当時の調理室の設備でできることのすべてでした。そうなれば、おのずとできるメニューに限界があります。あまりに変化がつけられず、名前を変えただけの献立を出したこともあったそうです。どうしたらメニューを増やすことができるのか……。そう考えていたとき出会ったのがスチコンだったのです。
導入から5年は、試行錯誤の連続。
スチコンを導入さえすれば、メニューが増やせる。そんな期待とは裏腹に、残念ながら思うようにはいきませんでした。「正直、導入してから5年は、試行錯誤の連続でした」と語る平岩園長。スチコンが多機能であるため、「本当に使いこなせるの?」と思ったそうです。そうした不安は、現場での消極的な行動を招くことになります。
たとえば、温度調節一つをとっても中途半端な行動になっていたそうです。カリッと焼くために設定温度を250度以上にする必要があるのに、経験豊富な調理スタッフが「焦げそうで、200度以上あげられない」と躊躇したこともありました。そこで平岩園長から「失敗してもいいから、挑戦してみてください」と檄を飛ばしながら進めていったとのこと。
スチコン活用に必要なものとは。
せっかくスチコンを導入したからには、活用しないといけない。そのためにも挑戦することを心がけたそうです。「スチコンでは焼きそばはうまく焼けない、という声を聞きます。私からすれば挑戦不足です。私たちはいろいろ試してみたおかげで、とてもおいしく焼けるようになりましたよ」と平岩園長。
挑戦といえば、「ちまき」も好例の一つです。スチコンと鍋火、どちらの方がおいしく作れるのか、試してみたそうです。その結果、スチコンだと固くなってしまったのだとか。これにより、スチコンも使い方次第ということがわかりました。こうしたチャレンジ精神もあって、スチコンを最大限に活用したメニューバリエーションが、ぐんと広がりました。そこでこれまでスチコンのメニューの中で、園児たちに好評だったメニューをお聞きしました。すると鮭のちゃんちゃん焼き、ジャーマンポテト、マーブルケーキなどが好評だったそうです。訪問時に「鮭のちゃんちゃん焼き」をごちそうになりました。巻末にレシピを掲載しました。ぜひ参考にしてください。
スチコンを活かすために、揃えておきたいもの。
スチコンの導入から、さまざまな経験を積んできた千草保育園。これまでを振り返りながら、スチコンを十分に活用するためには何が必要なのか、平岩園長にアドバイスをうかがってみました。
「使いこなすためには、何よりも試してみることです。中途半端な挑戦で、使えないなんて言ってはいけません。もう一点、大切なこととしては、必要な器具を揃えることでしょう」と言います。たとえば千草保育園では、スチコンに使用するホテルパンが豊富に用意されています。大きさや深さの違うホテルパンが14枚、エナメルホテルパンが6枚、この他に穴あきホテルパン、余分な油などを落とせるホテルパン用敷網などもありました。「ホテルパンが1種類だけでは、用途に限りがあります。作りたい料理があるなら、それに必要なホテルパンを用意することです。そこではじめて、スチコンはチカラを発揮できます」。当然ながら、こうした器具は買ったぶんだけ増えてきます。使い捨てのものではないので、あればあるだけ重宝します。さらに器具が増えたぶん、それを使って新しいメニューを増やす気にもなるというもの。まさに好循環でしょう。
ホテルパンによる、調理現場でのメリット。
スチコンに必要不可欠なホテルパン。実はこれがあることで、煩雑になりやすい調理現場が整理できるメリットもあります。さらに各教室へ配膳するときも、そのまま運べば済むうえに、その後もホテルパンだけを洗えば済みます。もし、これが一つひとつ食器に取り分けるとなれば、ひと手間かかるばかりか、食器を置くスペースも必要になります。さらに煩雑な現場では、調理ミスを招く危険性も考えられます。特にアレルギー対応の給食を提供するうえでも、整理整頓のできるホテルパンは有効な方法の一つと言えそうです。
器具を揃えることで、次の調理につながる。
さて、必要な器具の話に戻しましょう。ちょうど取材時に、その他の器具について話が発展しました。それが「蒸しパン」の例です。これまで千草保育園では、蒸しパンは一つひとつアルミホイルを使って焼いていました。そこでよりよい仕上がりにするため、大小サイズのリングをいろいろ試してみたそうです。その結果、思った以上に、ふっくらとした仕上がりになったのだとか。
こうして「必要な器具を揃える」という考えに行きついたのは、ここ5年くらい前からのことだそうです。やはり、実際に使ってみて、はじめてわかることのようです。同時にいろんな失敗や試行錯誤を繰り返したぶん、「つぎは、どんなメニューをつくろうか」という気持ちになり、ワクワクしてきたとも言います。
千草保育園の次なるステップとは。
スチコンを導入してから、10年を超えました。現在のスチコンは、機種の更新を繰り返して3台目です。今ではメニューを増やしたいという、当初の目的は十分かなえられました。
スチコンの活用について今後のことを訪ねてみると、こんな答えが返ってきました。「昔ほどメニューを増やしたいという気持ちではありません。もう、十分やってきましたから。これからはアレルギー対応の給食など、誰もがおいしく食べられるメニューを充実化させていきたいですね」。スチコンは、そのために必要不可欠なアイテムに間違いなさそうです。
食に関わる環境を整えてきた理由。
今回、スチコンの取材中に、「食」に対する平岩園長の考えにふれることができました。それは「“食”は命をつなぐものとして、必要不可欠な要素」という考え方です。そういった意味で給食は、毎日、園児たちが口にするもの。心からおいしいと思える給食を提供したいと考えているようです。だからこそ園児たちのためにスチコンを導入するなど、食に関わる環境を積極的に整えてきたのでしょう。同時に、「栄養士は、保育園の顔」と語るほど、食を提供する人たちのことも大切に考えている平岩園長。こうした平岩園長ご自身が、「食」に対する意識が高いからこそ、強いリーダーシップを発揮し、ここまで充実した給食が提供できているのだと言えそうです。
ちなみに調理スタッフのみなさんは、園児たちといっしょに給食を食べる時間をつくっています。おやつの準備があるため、みんなの参加がムリでも、1人でも2人でも同席できるようにしているとのこと。そのうえで園児たちの反応を見て、つぎの給食に役立てるために実施しています。こうした行動も平岩園長の考えによるものです。
「食」への思いを支える、過去の経験。
実は平岩園長がここまで「食」と深く関われるようになったのは、過去のできごとにあります。それは平岩園長が保育の現場に入ったばかりのことでした。右も左もわからない状態なのに栄養月報を渡されたそうです。どのように栄養計算をしないといけないか。人に聞きながら、献立の管理など一つひとつ勉強していったのです。こうした経験を積んだことが、その後の給食に対する考え方に大きく影響します。「給食をつくるとき、大切なのが“どんなものができあがるのか”という最終のイメージです」。たとえば献立を改善しようとしたときも、それがないと最終にたどり着くことができないそうです。まるで栄養士の指導者のように、日々の給食を見守る平岩園長。だからこそ単なる管理者としてではなく、給食に一歩踏み込んだカタチで取り組むことができたのではないでしょうか。
よりよい環境を築くために、つねに前向きな平岩園長。そのあふれんばかりの行動力は、スチコンの導入だけに限りません。たとえば15年前に導入していただいた当社の「わんぱくランチ」も同様です。当時、まだ献立管理や帳票類の作業は、手間のかかる手入力でした。それを改善したくて、当社にお声がけいただいたのです。慣れないソフトに悪戦苦闘の日々。「使いこなせなければやめよう」という意気込みのもと、有料の研修をオーダーしていただいてまで取り組まれました。当時の私たちもご指導・ご意見をいただきながらの時代です。ソフトの完成度が高まっていくと同時に、調理スタッフのソフト習熟度も向上。それが現在では給食の運用に役立てられ、よりよい給食の提供に一役買っているそうです。
最後に
これまでこのレポートでは、「食物アレルギー」や「食育」について、数々の保育園の活動をご紹介させていただきました。どの取材先も、根底にあるものは園児たちへの深い愛情であり、「食」に対する熱い想いです。今回の取材先である千草保育園も例外ではありませんでした。これからもこうした有意義な保育園の活動があれば、どんどんレポートしていきたいと思っています。今回、平岩園長をはじめ、ご対応いただきました保育園スタッフの皆様、貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。
(取材日2016年5月10日)