ユーザー訪問 さざなみ保育園
これまでアドムでは全国6900ヶ所以上の保育園に、給食ソフト「わんぱくランチ」を提供してきました。その中には、すばらしい給食を提供されている保育園があります。そこで私たちが知り得た考え方や情報などを、おつきあいのある保育園の方々にお伝えしたらどうだろうか、きっといい影響を与え、これからの給食活動に役立つかもしれない、そんな想いからニュースレターを発行することになりました。今回ご紹介するのは、長崎県北松浦郡にある「さざなみ保育園」。ここでは「食」への関心を高めるため、栄養士さんを含めた組織的な取り組みをされています。さっそくアドムの佐橋がレポートしましょう。
子どもたちは、どうしたら喜んで食べてくれるのか?
わあ、おいしそう!」「これ、おいしいね」…。子どもたちが歓声をあげながら、もりもりと食べてくれたら、どんなに幸せなことでしょうか。私たち給食に関わる者は、そんな喜びを得るために、日々努力しています。しかし、どんな知恵を働かせれば、子どもたちは喜んで食べてくれるのでしょうか。実は、この課題に園長先生から保育士さん、栄養士さんまで一丸となって取り組む保育園があります。それが長崎県にある「さざなみ保育園」です。これまで訪問させていただいた保育園の中でも、ここは食育に関する運営において理想的な保育園といえます。そこで今回、少しでも食育のヒントになればと思い、取材させていただきました。
月1回の「検討会」。そこで生まれるものとは?
たとえば、園児たちに調理を手伝ってもらったり、調理室をガラス張りにして調理姿を見てもらったり。いろんな視点から「食」に関心を持ってもらえるよう、どの保育園も工夫をしています。一方、「さざなみ保育園」の注目すべき点は、園の取り組みにありました。では、どのような取り組みがされているのでしょうか。現場で働く栄養士である松本好子さんから、お話をうかがいました。
「給食に関して、月1回、検討会を行っています。ここに参加するのは、園長先生と主任の先生、各年代を担当されている保育士の方々です。そして、現場で調理する私たち3人も同席します。会議の内容は、前月に出した献立の感想と反省、次月の献立内容について話し合います」
通常、どの保育園でも全員参加で献立の検討会が行われています。しかし、「さざなみ保育園」は、献立の検討会になんと「料理の専門家」が参加しているのだとか。給食には、栄養面はもちろん、見た目、おいしさに配慮することが大事です。その中でも、おいしさを向上させるため、料理の専門家からの助言を参考に、献立を作成しているそうです。
一方で栄養士さんたちの日々の努力も、見逃せません。「さざなみ保育園」では、献立には、必ず「新メニューを、1品以上入れること」が必須になっています。調子のよいときは、3品出すこともあるのだそうです。しかもこの検討会では実際に試食してもらい、みなさんから前向きな感想の結果、場合によってはつくり直すこともあるそうです。それでなくても日常業務で大変な栄養士さん。さぞかし負担になっているかと思いきや、決してそうではないといいます。
つくることが好き。だからチャレンジできる。
「基本、私たち3人は、つくることが大好きです。私個人も、10代の頃からあこがれだった保育園給食。いまその職場で働けることが、うれしいんです。だから、むしろ楽しくて仕方がないんです」と笑顔が返ってきました。聞くところによると、新メニューに関しては園長がどんどん推奨しているとのこと。試作のためほしい食材があれば、よほど高額なものでない限り、喜んで用意してくれるそうです。自分たちで考えた試作を、みんなで味わい、検討する。きっと、のびのびと楽しく献立が立てられるのではないでしょうか。また、こうしたチャレンジができるのも、50人規模の保育園ならではのメリットといえます。
保護者面談では、栄養士も同席。
検討会からはじまった松本さんのお話。さらに興味深い話へと発展しました。それが毎年6月に実施している「保護者面談」です。保護者面談と聞けば、ふつうであれば保育士さんとの間で行うものとイメージします。それがさざなみ保育園では、少しちがっていました。
「私たちは毎月、子どもたちの成長を記録しています。どれくらい背が伸びたのか、体重がいくら増えたのか。これらを集計したデータをもとに、私たちも同席して園児たちの成長についてお伝えしています。ちなみにこのとき使用しているのが、わんぱくランチの成長曲線なんですよ」
松本さんによると保護者面談では、栄養士さんから子どもたちの成長を伝えるスタイルをとっているとのこと。これは、かなり珍しいケースではないでしょうか。しかし、栄養士が同席することで、ご家庭の食生活を直接知ることができます。それは日々の給食に活かせるばかりか、子どもたちの成長を見届ける喜びにもなるでしょう。まちがいなく栄養士さんのモチベーションアップにもつながります。
保護者面談で使う成長曲線のよさとは?
聞くところによると、保護者面談に成長曲線を取り入れたのは、6年ほど前からだそうです。わんぱくランチに「成長曲線」機能を組み込んだのも6年前。つまり、この機能が備わった時点から、現場で活用するという前向きな姿勢に、ただただ感心するばかりです。
「成長記録も、数字ばかりではピンときません。でも、成長曲線で作成したグラフなら、パッと見ればわかりますよね。『うちの子、ちょっと小さいんですね』とか『すくすくと順調に成長しているんだと安心しました』などのお言葉をいただいたり…。面談でとても役立っているんですよ」
そう語る松本さんは、とてもうれしそうです。この他、保護者面談で活用しているのが、朝食アンケートです。これは園児がどれくらいの割合で朝食をとっているのかを調べたものです。保護者面談では、アンケートの結果を伝えつつ、各ご家庭の朝食状況を確かめているそうです。
給食メニューは、家庭で出さないものを出す。
さざなみ保育園でつぎに注目したいのが、日頃の給食についてのスタンスです。ふつうであれば栄養バランスを考えつつ、安全でおいしい給食を提供したいと願うでしょう。さざなみ保育園では、これらを押えながらも「家ではつくりそうもないメニューを入れる」ことに気をつけているそうです。
今の世の中、家庭では手軽にできて、子どもたちにも人気がある揚げ物などが食卓に並びます。保育園でも同じようなメニューを出しては、意味がありません。保育園の昼食だけでも、家庭で不足しがちな栄養をとってほしい。さらに煮ものなど、ふだん口にすることが少ないだろうと思われる献立を加えたい。そんな思いのもとに献立が立てられています。さらに調理では、できるだけ「手づくり」を心がけているそうです。
「家では、ひと手間かかる献立は、むずかしいですよね。私にも子どもがいるので、とてもわかるんです。だから保育園では、『お昼にしては、ごちそう』だと感じてもらえるような内容にしています」と語る松本さん。先にご紹介した新メニューを必ず入れることも含め、こうした姿勢が「食」への関心を高めることにも貢献しているようです。
忙しいお母さんたちのお手伝いをしたい。
栄養士が参加する検討会や新メニューの採用、成長曲線を使った保護者面談…。こうした積極的な活動は、すべてさざなみ保育園の大長園長によって推進されています。そこでこうした活動における根本的な思いなど、大長園長にうかがいました。
「基本、私たちはお母さんにはかないません。だから、せめてお昼だけでも、お母さんたちのお手伝いをしたいと思っています」。そう語る大長園長が考える根底には、今という時代背景が深く関わっています。
共働きの多い現代社会において、お母さんたちは忙しい毎日をすごしています。同時に食事の支度、毎日の献立を考えるのも大変。場合によっては、スーパーやコンビニなどで簡単に手に入るおかず(揚げ物など)に偏ってしまう可能性があります。そんな状況の中で、1日に「何を」「どれだけ」食べたらよいかという、厚生労働省が提唱する食事バランスを実現できるものではありません。しかも、子どもたちに「人参やピーマンを食べなさい」といったところで、喜んで口にすることもないでしょう。
「これ、おいしそう」。そう思わせる仕掛けとは?
そこで大長園長が考えたのが、自然と「食」に関心を持つような環境をつくることです。つまり、思わず「これおいしそう!これなーに?」と興味を持てるよう導くことです。そのためにも、見た目の彩りがよかったり、いい匂いがしたりなど、ひと工夫する必要があります。そこでさざなみ保育園では栄養バランスが整ったうえで、家庭では出てこないものを出す。具体的には、新しいメニューをつねに取り入れたり、地元でとれる旬の食材を積極的に取り入れたり…。松本さんが語っていた「お昼にしては、ごちそう」と感じてもらえるものを提供しているのです。
この他、さざなみ保育園では、毎年、年長親子クッキングを行っています。今年(2016年)であれば、2月のピザとみそまるづくり、3月のケーキクッキングです。たとえばケーキづくりでは、生クリームをぬったり、フルーツを切ったり、チョコペンで絵を描いたり。楽しみながら、食への関心を高めています。
栄養士の仕事は、つくって出すだけじゃない。
その一方で、「食」の環境を整えるという意味において、栄養士さん・調理員さんは重要な存在です。だからこそ大長園長は、栄養士さん・調理員さんの立場を尊重しています。事実、先に述べた検討会や保護者面談など、栄養士さん・調理員さんを積極的に参加させていることからもわかります。さらに、栄養士さん・調理員さんに対しては強い思いがあるようです。
「栄養士や調理員の仕事は、つくって出すだけではありません。栄養士だって、子どもたちの命に関わる仕事であり、責任のある立場でもある。保育園では、保育士だけが園児と正面からぶつかりあってるわけではありません。だからこそ、真剣にぶつかってほしいんです」
そう熱く語る大長園長は、栄養士さんの労働環境に気を配っています。たとえば栄養士さんの手間を軽減するためにスチームコンべクションを導入したり、3人体制にすることで完全週休2日を確保したりなどです。なおパートさんを活用する手段もありますが、「責任感が違う」との考えで雇用していないそうです。
大長園長のこうした強い思いは、園内の食育活動だけにとどまりません。実は年に数回、地域のお母さんたち対象に特別講座を開いているというのです。その内容は、食育に関した内容をはじめ、ときには脳科学の先生を招いた内容まで多岐にわたります。ちなみに今回の訪問時も、「みそまるづくり」イベントが開催されました(詳細は、トピックスで紹介)。
今や「わんぱくランチ」を使いこなす状態へ。
私たちアドムとさざなみ保育園とは、「わんぱくランチ」の黎明期からのご縁です。導入された動機は、献立管理や帳票類など、手間のかかる作業を効率よく進めるためでした。とはいえ、慣れないソフトの操作には、大変苦労されたそうです。ときには、使い方について大長園長自らお問い合わせいただく機会も多々ありました。同時に「わんぱくランチ」も、ご指導・ご意見をいただきながらの時代です。ソフトの完成度が高まると同時に、栄養士さんたちがソフトを十分に使いこなせる状態へ。今では献立作成や発注管理などフルに活用され、お問い合わせはほとんどなくなりました。それどころか、先にご紹介した成長曲線まで取り入れるなど、機能を最大限に活用するまで使いこなしている状況です。また、他の保育園に「わんぱくランチ」をご紹介いただく機会も増えています。今回は、ご紹介いただいた吉井保育所にも訪問。
導入された「わんぱくランチ」の設定方法や疑問点、使い方などについてをアドバイスさせていただきました。
最後に。
こうした大長園長の強い思いのもと、保育園が一丸となって「食」に取り組むさざなみ保育園。まさに、理想的な「食育」の環境にあるといえましょう。その中で私たちの「わんぱくランチ」が最大限に活用されていることは、最上の喜びです。今後もこうした活用例をご紹介できればと思っています。今回、多忙にもかかわらず、ご対応いただいた大長園長をはじめ、保育園の皆様方、心より感謝申し上げます。(取材日 2016年10月15日)