【子どもの日メニュー】
- ・ちまき
炊けたごはんを、笹の葉に詰めて昼食に提供。「笹の葉の匂いを嗅いだり、もちもちしたもち米の食感を味わったりと日本の行事食に触れあうことができました。1つずつ手作りするのは大変ですが、子どもたちの嬉しそうに食べている姿を見ると、作ってよかった、また来年も頑張るぞと心から思います」と丸山さん。子どもたちへの愛情がたっぷり詰まったメニューです。
Vol.8 横浜市金沢八景保育園
保育士として働く中、「大人が決めたルールで、保育が進められていいのか」という思いを抱いたのが27歳のとき。それから10年後の2011年から「横浜市金沢八景保育園」施設長・園長を務める石井望さんは、子どもの未来を第一に考え、“子ども主体の保育”を理念に掲げます。いまでは全国から視察が訪れる園に成長。“子ども主体の保育”は、食のシーンではどのようにかなえられているのでしょうか。佐橋がレポートします。
“子ども主体の保育”を掲げた当初は思考錯誤の連続だったと話す石井園長。「ゼロからのスタートで、手探り状態でした。しかもこの園の建物は、保育園として建てられたものではないので、使い勝手がよくありません。限られた環境で、人・モノ・空間を最大限に生かそうと考え、まずは人から。大人が楽しくないと子どもは楽しくありませんから、職員が笑顔で、主体的に動いてもらえるように。子ども同士がぶつからない静と動の空間を作り、やりたいときにやりたいことができる環境を整えました」。
石井園長が描く理想的な保育園の形とは、一つの小さな社会だといいます。「保育士、栄養士、調理師、看護師…違う職種の人たちがいる中で、ほかの職員が行っていることの大切さを知らないというのはよくありません。さまざまな立場の人たちと関わりながら、お互いを理解し合う。立場が違っても、“園児に愛情を注ぐ”という、目指している方向はみんな同じなのです」。
ごはん、お昼寝は何時、と時間で区切られたスケジュールはなく、遊ぶ時間、食事の時間など、おおまかに決まっているだけ。大人の指示で、子どもたちが動くことはありません。
「子どもがやりたいことをやる、というのは、自由気まま、とは意味合いが違います。子どもの意思を飲み込んで、受け止め、見守る環境を作ります。子どもの一時的な感情は、きちんと受け止めることで、落ち着きますよ」。
子どもが子どもを意識し合いながら、生活をすることを大切にしている横浜市金沢八景保育園。食事のシーンにおいても、直接的な指示はしません。「おなかが空いた子どもたちが増えてきたら、職員が食べたくなる雰囲気を作ります。食事をしたい子は、空いている席に座り、人数がそろうのを待ちます。バイキング形式の料理を自ら選んで運び、小さい子や友だちを手伝ったりしながら、楽しい食事の時間を過ごすのです」。細かく時間設定されていないからか、ゆったりとおだやかな空気に包まれています。
あくまで職員は雰囲気作りに徹し、園児の自主性を尊重。“自分でできた、やった体験”を増やすサポート役です。「もともと子どもはお手伝いが大好き。そこで大人が手を出して、口出しをすると、せっかくの気持ちがしぼんでしまいます。もちろん危ないことはさせられませんが、発達に合わせた経験は必要だと思っています」。
「“食べる・遊ぶ・寝る”という子 かが空いたタイミングで食べることが心の満足度につながります。ごはんを食べて、おかずを食べて、口の中でもぐもぐして、みそ汁で口をリセットする。手づかみ食べ、三角食べ、はじめは、ばっかり食べでもいいのです」。
食事の時間までは準備で大忙し。栄養士、保育士の表情が険しくなり、これから大変なことがはじまる…といった雰囲気になっていませんか? その原因は「決まった時間に、決まった内容を、きちんと食べさせなくてはならないという使命感が、大人にあるからなのでは」と石井園長。子どもが給食をひっくり返し、0・1歳児はこぼすこともあります。そこは口出しせずに受け止め、楽しそうな雰囲気を作るのが何より大事なのだそう。
そこで大切になってくるのが、職員の連携です。石井園長から栄養士へ伝えているのが、「食事の時間、子どもがどのように食べているのか、どんな箸の使い方をして、食器は合っているのか。しっかり見て、感じてほしい。料理を作る人の枠を超えて、保育園という社会の一員になってほしい」。栄養士は必ず1人が食事の時間に立ち合い、保育士と連携して、給食を充実させています。
保育者は子どもたちに、好き嫌いなく食べてもらいたい、マナーを知ってもらいたい、箸の使い方、お椀の持ち方、三角食べも覚えてもらいたい…とさまざまなことを願います。
園での取り組みを通して、自分で考えながら食べられるようになる子もいれば、ならない子もいるとのこと。
「保育園で伝えてないわけではありません。それは子ども次第で、無理強いはしません。応えてくれる子もいるし、いまはそこで止まって、もう少し先になるという子もいます。子どもがどういう風に経験して、どうしなきゃいけないのか感じてもらうことが幼児教育で、できるようにさせることではないと思っています。自分でできた、自分がやった、という経験をもっともっとさせたいですね」と石井園長は話します。
給食では実際、どのように自主性を大事にしているのでしょう? この日は園庭でプール遊びや虫取りに夢中の子どもたち。なかなか食事がはじまりませんでしたが、先生たちはニコニコと見守ります。栄養士は配膳に入り、子どもの栄養状態をモニタリングします。
1.子どもたちはおなかが空いたら、空いているテーブルに座り、自分でランチョンマットを敷きます。テーブルは5~6人がけ。人数がそろい、自分たちの名前が呼ばれるまで、子どもたちは座って待ちます。
【ポイント】
自分で用意するランチョンマット。食べたい合図です
2.自分の名前が呼ばれたら、イスをしまって、それぞれが給食を取りに行きます。「いっぱい」「少し」「いる」「いらない」など伝え、トレーに食べたい料理、分量を盛り付けてもらいます。
【ポイント】
子どもが選ばない料理があったとき、栄養士は「あまり好きじゃない?」「どんな味付けがいい?」と話しかけます
3.トレーを席まで運び、みんなで「いただきます」。おかわりをしたい場合は、食べた皿を再度持っていき、どのくらい食べたいかを伝えます。食後は年長児が中心となって食器を洗い、それを他児が見て、一緒に真似ています。
【ポイント】
机にトレーを上手にかけて並べる姿が。ごはんは左側…など皿を並べる位置も自然と覚えていきます
「自分ができた、やった経験をもっともっとさせたい」。石井園長の方針のもと、子どもに主体的に食べてもらうために、保育士は声がけや、雰囲気作りを行います。一方栄養士は、園児に選ばれる給食を作るため、より思いが強くなるのでは? 工夫や心がけを、栄養士の丸山奈津美さんに聞きました。(以下敬称略)