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食品選択行動に寄与する教育ツールを 2000/10/19

これまで優れた集団給食のシステムによって基本的な体つくりを成し遂げてきた日本。 しかし、優れたシステムであったからこそ、かえってこどもが自分で食品を選択する行動を 教えられなかったのかもしれない。今回は、食品選択行動の戦略をどう教育するのかについて考えてみたい。


■食品選択行動のストラテジー

人間に必要な栄養は特定の食品にすべて含まれているわけではなく、いろいろな食品に分かれて存在している。 したがって、特定の食品に偏らないでなるべくバランスよく食物を食べることが食行動の基本的な戦略だ。 この考えに沿えば、食教育の指導方法はバランス食になるような食行動を獲得するために行われるはずである。

ところが、現実の食教育では、肝心の「食選択行動」を教えてはこなかった。 幼稚園、保育園や小学校における食教育は、調理されたものを、できるだけまんべんなく食べる行儀作法にウエートが 置かれてきたといってもよい。

こどもたちはバランスのとれた食事を給食で食べることができる。 そこでは残さずに食べることがいちばん求められる。そうすることが、バランス食を実現する近道だからだ。

バランス食を教えるためのツールとして、食品の3色分けは広く普及している。 3色わけでは、食品を「からだをつくるもの(赤)」・「からだの調子をととのえるもの(緑)」・「熱やちからのもとになるもの(黄)」 の3色に分ける。高学年になると、それぞれの色がさらに2つに分化し6群分けとなる。( (1)魚類・肉・たまご・大豆(2)牛乳・乳製品・小魚・海草・(3)緑黄色野菜・(4)その他の野菜・果物・(5)油類・ (6)穀類・いも類・砂糖・菓子)

■日本のデファクトスタンダード「四群点数法」

それでは日本には、「食べるべき量」が示唆されるような教育ツールがないのかというとそうではない。 日本には香川綾氏が考案した「四群点数法」がある。これは世界的に誇れるものだ。

香川芳子氏が四群点数法による栄養クリニックを解説したのは昭和43年であるから、歴史的にはアメリカ合衆国 農務省の 「食のピラミッド」よりも実践法としてはかなり先行している。

しかし、この「四群点数法」が活用された場は小学校の教育の場ではなく、主に病院であった。

母親向けの研修会でこの四群点数法を紹介すると参加者には実はあまりうけがよろしくない。 ところが病気の人に「自分は何をどれだけ食べたらいいのか」の相談に答えるとなると患者は普段とはまったく違った反応になる。 つまり、日常生活では、1点を80kcalとして計算し、1日の食物摂取量を自分で計算するようなモチベーションは普通は 生まれにくいが、病気になれば話は別ということなのだ。
四群点数法は決して難解な理論ではないが、それでも小学校低学年に教えるのは難しいことも事実だ。

■こどもむけの食品選択行動を育てる教育ツールを

保育園や学校の給食はほんとうにありがたい。バランスのとれた食事を毎日食べることができる。 しかし、そのことが逆に、こどもの食選択行動の教育があまり重視されなかった背景にもなっているのは皮肉な話だ。

ごく最近になるまで、「個食」や「弧食」ということばはなかった。ところが大人と違った内容の食事をこどもだけが食べる「個食」や こどもひとりがぽつんと食事をとる「弧食」は、今、世界的に先進国の間では問題になっているという。 家庭における食教育の環境は、世界的な規模で脆弱なものになっているのだ。

これからの時代では、こどもたちに、食品選択に関して自己決定できる力を育てなければならない。 だが、これまで広く普及してきた教育方法では、「何を食べるべきなのか」はわかっても「どれだけ食べるのか」は 導き出されることはない。

3群分けにせよ、6群分けにせよ、こういった環境の時代に生まれた教育ツールではない。バランスのよい 食事が受動的に与えられた時代に生まれたものであって、現代のようにこどもたちが溢れるほど存在する 食の情報にさらされている時代にはあわなくなってきているのではないだろうか。

これからの時代には、こどもたち自身がこどもたちをまもることができるような教育ツールが強く求められているのだ。

■食のピラミッドは最もシンプル

栄養学は、どの食品がどの食品群に所属するのかについての知識を与えるためにあるのではない。 食品を食品群でとらえるのは、こどもたちに望ましい食品選択行動をとるためのストラテジーを与えるためにあるべきだ。

ここで、Creative Teaching Press社が出版しているPrimary Theme SeriesのNutrition(1-3学年)という教師用指導書を紹介しよう。 この書籍には栄養教育のいろいろなプログラムが豊富に記載されている。

例えば、Farmar's Market Sorting &Trading Gameというプログラムは、食品を交換し合いながら 食のピラミッドを完成させるゲームだ。

食品1品が描かれている三角形の紙片があらかじめ用意されるいる。
この紙片はワンセット35ピースで構成されていて、食のピラミッドがつくれるようになっている。
ゲームでは子供たちが数グループに分かれ、グループの数だけ用意された紙片のセットがひとつにまとめられる。
はじめに各グループは紙片を16ピース、ランダムにとり、「ファーマーズマーケット」がオープンする。

こどもたちは自分たちがもっている手持ちの紙片と、他のグループのもっている紙片をトレードしあいながら、 次第に食のピラミッドをつくっていく。そして、このゲームは、最初に食のピラミッドを完成させたグループが勝者となる。

■政府の役割

アメリカ政府は食のピラミッドを著作権フリーとした。そのため、現在世界各国で食のピラミッドが使用されている。 市場が大きいため、教材メーカーやおもちゃメーカーの参入も容易だ。教育プログラムの開発も教師の間で活発に行われている。

国は規制は緩和しなければならないが、何もしなくともよいというわけではない。食のピラミッドを公表し、著作権フリーにし、規制を緩和する ことによって食教育のパラダイムシフトが起きたのだ。

わが国のこどもの食の環境は危機的な状況を迎えている。牛乳を飲むことと、良質のたんぱく質を摂取することには成功したが 脂肪からのエネルギー摂取量は増加し続け、米の消費は年々落ち込んでいくばかりだ。
米を主食にしてたくさん食べれば、現在ある多くの食の問題は相当解決する。米を主食にすると、味噌、醤油をベースとして 小魚、海藻類、豆腐、納豆などからだに必要なものがほとんど入ってくる。ところがパンを主食にするとそうはいかない。

米をたくさん食べるためにも、保育園や幼稚園、あるいは小学校低学年の段階から、バランスの取れた「量」について こどもたちに教育する方法を確保していかなければならない。


Primary Theme Series Nutrition: JoAnne Kato, Kimberlee Graves: ISBN 1-57471-542-9,Creative Teaching Press, Inc., Huntingtion Beach,CA 92649


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