■増加する生活習慣病予備軍 肥満の問題は、近年、ますます深刻になりつつある。現在、幼児の7〜8%、 学童の7〜20%、地域によっては30%あまりが肥満とされるようになってい る。何事もアメリカの後を追っている日本。高脂肪・高タンパクの食事が多くなり、 日本人全体が、伝統的な日本の食事から遠ざかりつつある。このままでは、十数 年後には生活習慣病が蔓延し、限りなく現在のアメリカの状況に近づいてしまう ことは避けられない。 生活習慣病は、成人になってから対応するのではなく、幼児期より正しい食生 活の生活習慣を行わせるように努めることが第一の予防となるといわれている。 その意味では、こどもたちが生活習慣病予備軍にならないように対策を立てるこ とが急務だ。 ■肥満の始まり 乳児肥満は、現在では歩行を開始すると急速に解決することが多いため、「良 性肥満」と呼ばれる。外国においても、乳児期の肥満は必ずしもその後の小児期 肥満につながらないことが報告されている。これに対して、2〜3才から5〜6 歳の幼児期に入ってから始まる、いわゆる、「悪性肥満」が問題となる。 3才のときに肥満であった子どもの65%が学童期になっても肥満が持続し、 小学校入学時に肥満であった場合は70%が中学校入学時に肥満であった。さら に中学校入学のときに肥満であると60%が高校3年生のときに肥満のままであ るという。他の研究では、思春期には70%が成人肥満になるという報告がある。 このように、成人期になって、生活習慣病に直結していく可能性が高いことがわ かる。いいかえれば、保育所に通っている時期に、いかに肥満を防ぎ、望ましい 食生活習慣を確立するのかが期待されるわけだ。 ■食行動の問題点 こどもたちの生活習慣の問題は、以下のようなポイントに集約できる。 (1)糖分の過剰摂取 アメリカでは、1日に消費される清涼飲料水は、高校生の場合、1日3.5本に も上るという。(1997年度合衆国農政省調査)日本では、残念ながら、大規 模な調査は行われていないが、自販機の設置数や、若者の行動を観察すると、こ れに近い状況になっていることが予想される。 清涼飲料水や乳酸飲料を水代わりにのませたりする習慣も問題である。結果的 に、糖分の摂取過剰につながっていく。 (2)食事の内容の偏り 糖分の過剰摂取は食欲を低下させる。栄養不足を心配する親は、食事で、栄養 価の高い食べ物を好きなだけ与えることになる。その結果、脂肪、たんぱく質の 摂取量の増加、野菜嫌いのための食物繊維不足につながっていく。 無機質やビタミンは牛乳や野菜などからひろくバランスよくとることが大切だ。 ある種の食品を過大評価することも、特定の食品が健康に悪影響を与えると考え、 それを排斥することも感心しない。健康に最も重大な影響を与えるのが食事内容 の偏りであることを心にとどめたい。 (3)生活リズムの乱れ 日本人は、宵っ張りになった。24時間営業のコンビ二。夜食は食べ、朝食を 抜く97年の「日本人の食行動の調査」によると、約30%の世帯が朝食を食べ ていない。朝食抜きの生活が一般化したわけだ。 (4)運動不足 ちょっとした距離でも自動車で移動するライフスタイルが一般的だ。スポーツ ジムの中に固定された自転車に乗りにいくために、わざわざ自動車を運転するこ とを笑える人がどれだけいるだろうか。子どもたちも自動車が大好きだ。自転車 を使ったり、エレベータを使ったりすることが習慣化する。PS2を代表とする すばらしいエンターテイメントが登場し、こどもたちの運動不足傾向に拍車をか ける。 ■食事指導をする場合の留意点 保育園でやみくもに肥満を適視し、減量するように訴えてもおそらく成功につ ながらない。それどころか養育者との信頼関係を失うだけの結果につながること が多い。栄養指導を行う場合には、まず養育者とのコミュニケーションの質を高 めることが大切だ。その上で、生活習慣を改善するためにできる工夫について保 育園と家庭でできることを話し合うのがよいのではないだろうか。以下に、保育 園での食事実践についての工夫について簡単にまとめる。 ・問題の解決をあせらず、じっくり養育者の話を聴く。 ・身長と体重の変動を詳細に記録し家庭に報告する。 ・おやつ等食事の量とリズムを規則正しく実施する。 ・薄味に慣れさせ、好き嫌いを作らないよう料理に工夫をする。 ・伝統的な日本の食事を積極的に献立に取り入れる。 ・養育者の意識改革のための情報提供を行い、家庭の生活習慣の改善を支援する。 保育所の対象者は発育期にあり、生活習慣を確立する大切な時期でもある。保 育所の給食が幼児の成長に重要な役割を果たすことはいうまでもない。食生活が 危機的な状況にある現代、保育所が家庭や地域へに対して果たすべき食生活指導 に関する役割は限りなく大きい。 |
| 戻る |