保育園における栄養管理サービス(1) 2002年1月19日、和歌山県民間保育園連盟主催で第25回記念研修大会が開催され、第2分科会では 加藤久和・佐橋祐佳里が講師として参加した。テーマは「給食業務のQC活動」 ●栄養アセスメント 給食業務のQC活動には(1)プロダクトとしての給食品質管理と(2)栄養管理サービスの2つの側面がある。 今回は、(2)の栄養管理サービスに焦点を当てて研修を行った。 栄養アセスメントは大きく分けて、内のアセスメントと外からのアセスメントがある。 内のアセスメントはクライアントの栄養に関する情報を得るための問診・身体検査・身体計測・臨床診査 である。一方、外の評価はどのように食事を摂ったかという喫食調査である。外からの栄養が実際に体の 中に入り、どのように人間に対して影響しているのかを内からも外からも評価することが栄養アセスメントである。 これまで社会福祉施設では、栄養アセスメントといえば外からの調査のことを意味した。しかし、栄養管理サービス の立場における給食アセスメントは、給食をどうやってつくったかだけが問題なのではない。栄養のバランスからみても、 コストと品質のバランスからみてもクオリティの高い給食をいかにつくり、なおかつそれがどのように食べられ、 利用者の健康にどのように作用しているのかを総合的に判断することを意味する。 特に、集団に対する栄養アセスメントは実施されてきたが、個人の処遇という観点から栄養アセスメントを行う ことはほとんどなかった。その理由は栄養士としての業務の煩雑さもさることながら、 施設として給食にどのようなお金の使い方をしたのかは問題にされていたが、 個人に対してどのような栄養的処遇を行ってきたかは問題にされてこなかったことに本当の理由がある。 ●栄養管理サービスでも他のマネージングと同様の流れ 高齢者福祉では、ケアマネージャーがケアプランを立案する。介護度に関して判定を行い、 本人の要望に従って、栄養ケアプランを立案する。栄養管理サービスにおいても、 (1)リスクのある利用者の栄養スクリーニング (2)栄養アセスメント (3)栄養ケアプランの立案 (4)実施 (5)モニタリング (6)評価 という流れで栄養マネジメントを行う。 この流れは、高齢者のためのケアプランと類似の流れである。 マネージメントは、複数の人間が共通の目標を達成する際には必ず必要となる作業である。 栄養管理サービスは、社会福祉施設という場で、介護スタッフや保育士、看護婦などの職員が利用者の 健康を実現するために必要となる作業である。 マネージメントは(1)プラン(2)実行(3)チェック(4)構造の改善という、P→D→C→Aのプロセスを経る。 栄養管理サービスでも同様だ。図は、栄養管理サービスを模式的に表したものである。 ●集団から個人へ これまでの給食会議は、給食業務について、給食を利用する集団に対してPDCAを行ってきた。 言いかえれば、外からの評価だけでアセスメントはすんでいた。 もちろん、これで問題がない場合はそれでいい。だが、偏食が強いこどもがいたり、 栄養失調の状態に陥ってしまっている利用者がいたり、ガン、糖尿病などの生活習慣病リスクが どんどん高まっている利用者がいたりする状況では、個別の栄養管理サービスを実施することが 強く求められることになる。 確かに、集団から個人にアプローチすれば、これまで支払わなくともよかったコストがかかるよう になるかもしれない。しかし、生活習慣病を予防するための措置がかえってケアコストを引き下げるというようなことも考えられる。 それ以上に、個々の利用者のQOLが栄養管理サービスを実施することによって飛躍的に向上するならば、実施しない手はない。 栄養アセスメントには、(1)臨床検査と(2)臨床診査がある。臨床検査は血液検査など医師がいなければ行えないため、 通常社会福祉施設では実施されない。 一方、臨床診査に相当するものとしては、ADLを調査し、つめの色、皮膚の色つや、 髪の毛の状態、身体検査を行い、身長や体重などの計測やチェックを行うことがあてはまる。 特に、社会福祉の現場における栄養アセスメントでは、身体計測および体重の変動が実際的で重要な指標となる。 また、保育園のような家庭と連携してこどもの栄養管理サービスを行うような現場では、家庭からの情報を的確に 捉えることが重要な指標になる。 ●栄養バランスがくずれはじめたら 偏食や食欲不振が起こったり、過食などの異常行動がでたりするなどで、利用者の栄養状態が崩れたら、 すぐにできる範囲で栄養アセスメントを行う。医師に相談する場合にも、個人別に (1)園での喫食状態 (2)家庭での喫食状態 (3)継続的な体重の変動データ (4)園での行動上の特記点 (5)コミュニケーションの状態 (6)運動など活動の状態 などを記録してあれば、栄養アセスメントに役立つ情報となる。こういったアセスメントがあることによって、 適切なケアプランが立案できる。 これらのデータを記録することは、たいへんそうだが、実はそれほど手間がかかる作業ではない。例えば保育園の場合、 リスクのあるこどもだけに実施し、かならずしも園児すべてにこの作業を行う必要はないかもしれない。 ただ、体重と身長については、必ず定期的に記録に残しておくとよい。 ●栄養ケアプラン 図に示すように、栄養ケアプランには(1)栄養補給(2)栄養教育(3)多領域からの栄養ケアがある。 (1)の栄養補給は、栄養アセスメントによって明らかになった栄養を補給することだ。根拠に基づいた 栄養補給(Evidence Baced Nutirtion Care)が行われる。 アメリカ合衆国においてはすでに疾病ごとに根拠に基づいた栄養ケア方法が確立しはじめており、 疾病ごとのクリニカル・パスに関するデータベースもできあがっているという。 (2)の栄養教育は日本においてはまだ著についたばかり。このホームページでも新しい考え方に基づいた 食教育について紹介しているが、日本ではまだ関心は薄い。本人の食選択行動を支援するための方法論の確立 が望まれる。 (3)の多領域からの栄養ケアは、社会福祉施設においては栄養士、フードサービススタッフ、看護婦、 PT、OT、ケアマネージャー、言語療法士、スポーツインストラクター、心理士などの栄養支援チーム (NST)による栄養ケアを意味する。 栄養の改善サービスはQOLの改善サービスに他ならない。多領域のチームワークがあってこそ、栄養ケアプラ ンは成立する。言いかえれば、栄養ケアプランを立案する場合には、 施設のスタッフが協力してケアを行うと効果的であるということだ。 ●栄養アセスメントとインシデント・プロセス 栄養アセスメントを行うことによって良質の栄養ケアプランが立案できる。 今回の実習では栄養リスクがある保育園児を事例としてとりあげ、情報探索能力を高めるための手法として、 インシデント・プロセスを実施した。 実際の演習手順については、保育園における栄養管理サービス(2)を参照していただきたい。 参考文献 これからの高齢者の栄養管理サービス−栄養ケアとマネジメント− 細谷憲政・松田朗監修/小山秀夫・杉山みち子編集 第一出版 |
|
| 戻る |