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給食業務のQC活動とリスクマネジメント

ここ10年、保育園で起こる事件や事故は深刻化しているような印象を受ける。 特に、病原性大腸菌O−157は、多くの犠牲を出したことで記憶に新しい。 一端、食中毒事件を引き起こすと、保育園を利用しているこどもたちを傷つけるだけではなく、 保育園自体も深刻な経営的打撃を受けることになる。児童の減少で経営が圧迫される中、 保育園はリスクマネジメント(危機管理)を確立することが強く求められている。


●リスクマネジメント

リスクマネジメント(危機管理)は今や時代のキーワードになった感がある。 福祉現場においてもしかりだ。

保育園の経営リスクのうち、業務上の事故による経営リスクは大きなウエートを占める。 これは保育園に限らず、社会福祉事業、医療現場、学校など、 ヒューマンサービスにかかわる事業体共通の経営リスクである。こどもたちを守るためにも、 保育園が継続的に地域社会の資源として活躍するためにも、 保育園は事故に関するリスクマネジメントが欠かせない。

●ヒヤリ・ハット運動

事故のリスクはどんな事業所にも存在する。人間はミスを犯す動物だからだ。 日常の保育場面では、大きなミスが起こることもあれば、 重大なミスに至らないけれども危なかったというミスまで様々なリスクが発生する。

QC活動のひとつに、ヒヤリ・ハット運動といわれる活動がある。日常診療の現場で、 "ヒヤリ"としたり、"ハッ"とした経験を有する事例をヒヤリ・ハット事例という。 ヒヤリ・ハット運動は次のような実践プロセスによって構成される。

(1)ヒヤリ・ハット体験報告を集める。
(2)ヒヤリ・ハット事例の分析と評価を行う。
(3)原因、種類及び内容等をコード化する。
(4)ヒヤリ・ハット事例集を作成する。
(5)ヒヤリ・ハットの評価分析をもとに独自の事故防止マニュアルを作成する。
(6)マニュアルの定期的な見直しを行う。

ヒヤリ・ハット運動は、組織の構成メンバーからいかに豊富にヒヤリ・ハット事例を 集めるかにかかっている。もし、ヒヤリ・ハット運動が具体性の乏しい抽象的な事例で 終わってしまうと、リスクマネジメントはおろか、かえって現場の足の引っ張り合いにもなりかねない。

●ヒヤリ・ハット成功の鍵はリスクマネージャーが握る

ヒヤリ・ハット運動を成功させるためには、リスクマネージャーを置く必要があるといわれている。 リスクマネージャーの最大の仕事は、ヒヤリ・ハット事例をできるだけ多く集めることだ。 そのために、大切なルールがある。

・ リスクマネージャーは、事業所の代表者以外に任命する。
・ ヒヤリ・ハット体験報告に対しては不利益処分を禁止する。
・ 同報告の記載日の翌日から1年間保管する。

ある地方都市の園長と調理員に対し、別々に給食業務におけるヒヤリ・ハット体験を報告 して下さいと依頼したところ、園長からは給食業務に関してヒヤリ・ハット体験報告は0であった。 一方、調理員からは、「アレルギー除去食をつくっていて、卵を除去するのを忘れ、 危うく給食として出しそうになった」「アナフィラキシーショックを起こす恐れのあるこどもの給食に、 エビを間違えてスープに入れてしまった。」など、ぞくぞくとヒヤリ・ハット体験が報告された。

リスクマネージャーが設置されると、ヒヤリ・ハット体験が報告されやすくなる。 経営者には自分の失敗談をなかなか報告しにくいということもあるため、 リスクマネージャーの役割は重要である。ヒヤリ・ハット体験には、リスクを未然に防ぐためのヒントが 隠されている。そのため、ヒヤリ・ハット体験報告は、共有すれば貴重な経営資源となる。 できる限りヒヤリ・ハット体験報告がされやすい環境をつくることがリスクマネージャーの 最大の任務であるともいえる。

●リスクの分析

厚生労働省が提案しているヒヤリ・ハット報告書の例を添付する。この報告書は、大きくわけて、 (1)発生場所の分類(2)ヒヤリハットの内容(3)評価項目の3つで構成されている。 体験者は、発生場所の分類と、 ・ヒヤリ・ハットの内容 ・未然に防ぎ得ことであれば、どうすれば防止できましたか? ・この体験で得た教訓やアドバイスはありますか? という項目に従ってヒヤリハット体験内容を記載し、リスクマネージャーに報告する。

次に、リスクマネージャーは重大性、緊急性、頻度、予測などの評価項目に従って ヒヤリハットの分析評価を行う。必要ならば詳しい情報収集を行い、報告書を完成させる。

●PLAN→DO→SEE

ヒヤリ・ハット運動は典型的なCQI(継続的改善活動)のひとつである。 事故防止は、職員のひとりひとりがリスクを自分の問題としてとらえ、 リスク管理の必要性と重要性を認識していることが大切であるといわれている。

今日本では経営のあり方として、トップダウンの必要性が指摘されている。 競争時代に生き残るためには、これまでのようなコンセンサスを重視したやりかたでは間に合わないし、 それでは経営の特徴がでず、生き残ることは難しい。 しかし、だからといって上から強引に押さえつけても、 保育園の経営リスクを減らすことにはつながらないところが難しい。

現在、厚生労働省からも保育園などの給食業務において、 施設長を含む給食会議を毎月必ず行うことが義務づけられた。 給食会議では、P(計画)、D(実行)、S(評価分析)のプロセスを経て より質の高い給食を提供するように指導されている。

PDSでは、トップダウンとボトムアップの二つのプロセスをかいくぐる。 トップダウンで設定された目標も、現場の評価プロセスを経てより適切な方向性をもって再設定される。 逆にいえば、業務のQC活動は、現場が主体的に参加してこそ意味のある内容になるし、 そうでなければ絵に描いた餅にすぎない。ヒヤリ・ハット運動のいいところは、 具体的な現場の改善目標が現場から提案される点だ。

●さいごに

厚生労働省は、すでに医療現場における医師や看護士向けのヒヤリハット報告書の様式を発表している。 しかし今のところ給食業務関連のヒヤリ・ハット報告書の様式は厚生省からは出ていない。 ただ、これらの様式は老人、児童にかかわらず、各福祉現場で応用することは十分に可能だ。 保育園の給食現場では、狂牛病に見られるように、 園独自の判断を時間をおかずに求められる時代が来ている。 そのような事態で冷製で適切な判断を可能とするためには、 ひごろの訓練がものをいうことはいうまでもない。 さいごに、リスクマネジメントのさしすせそを紹介してこの稿を終える。

リスクマネジメントのさ・し・す・せ・そ

(さ)最悪の事態を想定して
(し)初期動作を
(す)すばやく
(せ)誠意をもって
(そ)組織的に


※アレルギー対応食はポスト除去食時代へ

アレルギー除去食は調理作業の各工程において、 調理員が注意しなければならないポイントが多い。 やってみるとなかなかリスクが高い作業内容になる。 例えば、スープの中に牛乳を入れてしまう、小麦粉と代替食品を間違えるなど。

現場で、違う食事をそれぞれのこどもに食べさせることも、こどものストレスとなりやすい。 「なぜ自分の食べ物だけ見た目が違うのか」を こどもに理解させるのはなかなかたいへんなことだ。

また、2才〜6才はこどもが急速に発達する年齢でもある。 除去した場合の栄養的な不足をどのように補うのかについて、保護者の不安が高く、 保育園や医師に対してクレームがでやすいのだ。

医師の対応にも問題がないわけではない。 一般に医師は献立や調理について専門家ではないという意識が強く、 保護者に栄養不足に関する訴えを受けると対応がぶれがちだ。 自信がないだけに、「栄養不足」を強く訴えられると、
「じゃあ、少しアレルギー食品を減らすだけにしましょうか」
「それはお母さんの判断です。こちらはアドバイスができるだけですから」
という対応を行いがちになる。そのように対応してしまうと、最悪の場合、 それまでの除去食の努力が水の泡になってしまうことも考えられる。

理想的には、同じ献立内容(または見た目が同じ)で しかもアレルギー対応食になるような献立が作成できることだ。 もし、このような献立が可能であれば、これまで指摘されている除去食で 対応している時の人為ミスが完全に防ぐことができる。 ただ、それが簡単にできれば、アレルギーはこれほどまでに問題にされることは なかったはずではあるが...。

アドムでは現在、見た目が同じか同一の献立で卵や牛乳を使用しない、 ポスト除去食のアレルギー対応献立を開発中だ。 例えば、卵は使わない献立をたて、代わりにサバ、鰯などを使用したりする。 栄養価を等しくして、味のバランスを良くするために材料を次々に入れ替えて シュミレーションを行って開発した。この献立を11園(公立4園、私立7園)が 12月より実施し、長期間のモニタリングを行う予定になっている。

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