日本でもいよいよ草の根的地域の栄養改善運動が始まりつつある。しかし、問題は
草の根運動を根付かせ、花開かせるための土壌となる地域の栄養クリニック。
自治体、企業、NPOなど多様な支援体制ができてこそ、ほんとうの意味で、
国民レベルの栄養管理が推進されることになる。今回は、著についたばかりの
「健康日本21」運動を紹介し、運動のあるべき方向について探る。 ●いよいよ本格的にスタートする「日本版ヘルシーピープル2000」 生活習慣病を予防することは別の言い方をすれば行動変容(Bihavior Change) を起こすということである。 近年、行動変容に関する研究が急速に発展しつつあり、様々な分野で行動変容の モデルの応用が試みられている。 わが国で、個人の行動変容を支援し、健康で文化的な生活を営むことを目的とし た官民一体となった支援システムがスタートしている。 「健康日本21」がそれだ。ここではアメリカ合衆国の「ヘルシーピープル20 00」をしのぐ健康運動を想定している。アメリカを参考にして、日本独自の事 情を加味してできただけあって、内容的に見て現在、世界最高レベルの戦略とい えるものだ。 http://www.kenkounippon21.gr.jp/kenkounippon21/intro/index_menu2.html 日本は高齢化社会を迎え、国民の健康寿命を延ばし、生活の質を高め、社会的負 担を押さえるための基本的な戦略が必要なことは言を待たない。「健康日本21」 は、基本的にはPlan→Do→Seeのサイクルの中で、科学的な根拠に基づき、数値 目標の達成に向けて企業と地方自治体が国民の健康増進に向けて統合的に活動を 行っていく構造になっている。 ただ、やや気になるところは、「健康日本21」運動に占める地方自治体の役割 が大きく、一般企業の参加が主体的に起こるようなしくみについてはアメリカと 比べてまだ相当に弱いところだ。 ●一次予防と二次予防の違いを知っている企業はまだごくわずか 健康運動はあくまでも個人が主体となる運動である。とはいえ、健康の問題に対 し、最も大きな影響を及ぼしているのは就労の場であろう。国民の6400万人 が雇用されている企業がその気にならなければ「健康日本21」運動は実を結ぶ ことはない。確かに、企業における健康管理は年々関心は高まっている。健康診 断を実施している企業は零細企業でも広がってきている。しかしそれは、「早期 発見・早期治療」という疾病の「二次予防」のレベルでしかない。 「健康日本21」運動でも提唱されているように、国民の多くの人たちが所属す る中小、零細企業の場合、日ごろから社員の望ましい生活習慣を実現するために 様々な活動を行っている事業所は残念ながら少ない。昨今の不況下で、どうやっ て売上を維持するのか、どうやってコストを切りつめるのか、どうやって社員の リストラを進めていくのかにやっきになっている状況では、社員の生活習慣病の 予防のために健康運動をはじめましょうといわれても簡単に動けるものではない。 しかし、企業にとってもっとも価値の高い財産は人材である。社員が病気になれ ば、それまで企業が投資した人材募集コスト、人材育成にかかけたコストをいっ きにふいにし、これからその社員が生み出すであろう価値を失うことになりかね ない。リストラが進み少数精鋭になれば、さらに社員の健康状態が企業経営の大 きな要素を占めるようになることも真実なのだ。 2000年、日本人の自殺者は年間3万人を越えているという。21世紀日本は 自殺者の増加とともに始まった。死因の上位はガン、心臓疾患、自殺である。な んと7兆5000億円もの医療費が生活習慣病の治療に費やされているといわれ る。 自殺は生活習慣病ではない。しかしながら普段から栄養バランスの良い食事を食 べ、軽い運動を行い、よく休息をとれば相当の人が命を落とさずに済むのではな いだろうか。(もっとも、それができないから自殺者が減らないのかもしれない けれども) ●多様なサービス主体による支援環境が必要 ひとことで「一次予防」といっても、実はたやすいことではない。 あなたは「酒をやめた方がいいですよ」といわれて素直に酒をやめれるだろうか? また、「たばこはガンの危険があります」といわれてすぐに買ってきたたばこを 箱ごとゴミ箱に捨てられるだろうか?「不規則な生活が健康には悪いんです」と いわれて、納期が迫っているのに家に帰れるだろうか?「会社が終わってから同 僚と遊びに行くことが健康を害することにつながるのですよ」といわれて反発を 感じないだろうか? 企業が口をすっぱくして従来型の健康指導や栄養指導を行っても、社員の生活習 慣は容易に改善しない。 従来行われてきた、専門家による健康知識の提供とその指示に従わせる指導方法 の限界といえる。 生活習慣を改善するためには、本人が生活習慣を変えることを選択しなければな らない。しかし、それを本人が選ぶまで待っていたのでは状況はなかなか好転し ない。本人の潜在的な要求にあわせて本人が生活習慣を変えること、すなわち< 行動変容>を支援するシステムが必要なのだ。 そういった支援は、本来、行政機関や地方公共団体が行うものではない。健康状 態はひとりひとり違う。人類にとっ必要な栄養素は共通だが、健康状態はひとり ひとり異なる。そのため、必要な栄養素も、運動メニューも、休養メニューもひ とりひとり異なるはずだ。万能の健康食品が存在しないように、すべての人に効 果が上がる支援メニューも存在しない。 今私たちの社会に必要な支援環境は、センター的なホスピタルではなく、ひとり ひとりの健康を守るための医療行為を伴わない地域の栄養クリニックである。そ れは多様な個人の健康ニーズに応じて、多様な選択肢の中から選ばれるモノでな ければならない。 ちょっとした支えをタイムリーに行ってくれるだけでも、生活習慣を変えたいと 願っている人たちにとっては大きな支えとなるに違いない。こういった新しいサー ビスが日本でもどんどん生まれ、その技術を競い合うことが起こることが望まれ る。 |
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