「児童福祉施設における給食業務の指導について」の改訂作業がようやく終了した。
昭和31年に厚生省から通知された給食業務のガイドラインの見直しは、
平成12年に始まり、2001年7月3日付けで最終改訂版が厚生省から通知された。
この作業は実に45年ぶりの改訂作業となった。
これを受けて、各県の担当者は給食業務の改善方向に従って改訂作業が行われている。
保育園給食業務のあり方は大きな転換期を迎えることになった。 ●改訂の基本はPlan Do See 「八百屋で購入してきた食糧を何人で分けて食べたので、 与えた栄養は、ひとりあたりこれくらいになる」 アドムは栄養計算ソフトを保育園に供給しているが、「わんぱくランチ」の機能に関する問い合わせの中には 上記のように購入した食材の総量をもとにして栄養計算ができないかというものが年に何回かあったことは事実だ。 保育園には栄養士が配置されていないところも多いので、昭和31年のガイドラインがそれを認めている以上 そのような使った材料から逆算して栄養価計算をしたいという要望が出てもおかしくはない。 しかし、子どもたちの健全な発育と健康の維持・増進という観点から給食業務を考えると この結果オーライ的なアプローチではいかにも問題が大きい。これは今後、保育園に求められる戦略経営からほどとおい 発想であるといえる。 図は、今回明確に打ち出された給食業務の流れである。 これを見ると、給食会議を開き目標を設定し、目標を実現するための献立を作成し、食品発注を行い、 給食を食べて、各種の帳票や嗜好調査、残食の調査を行い、結果を新たな目標設定にフィードバックするという プロセスを経る。 改訂では、給食は適温だったのか、盛りつけ方法はよかったのか、使用食品は適正に選択されているのかなど、 給食の内容そのものが検討すべきだとされている。場合によっては、不足する給与栄養素を補うため強化食品の使用等を 積極的に進めている。 このプロセスは、継続的改善活動(Continuous Quality Improvement)そのものである。 いかなる献立も、単独ではこどもにとって必要な栄養素をすべて供給することができない。 「楽しい」「おいしい」という食の情緒的側面を考慮すれば、給食は長期にわたって常に見直さなければ ならない業務である。給食業務こそ、目標を設定し、目標実現のために実行し、結果から新たな目標を設定する というプロセスが必要なのだ。 ●改訂の背景 今回の改訂を行った背景には、ここ10年あまりの急激な食環境の変化が背景にある。 日本人の食生活がこのところ急激に変化したことを受け、平成12年には「第6次日本人の栄養所要量改訂」があった。 さらに、平成12年末になって、「五訂標準食品成分表」が発表された。 こどもたちの食生活では、家族と分離してひとりで食べたり、ひとりだけメニューが違う「個食」が増加している。 街にはコンビニやファーストフードがひろがり、家庭だけが栄養摂取の場ではなくなっている。 よりおいしいものが求められることから脂肪からのエネルギー摂取量が次第に増加し、 和食を選択することが減少している。 様々な要素が複雑に作用し、アレルギーが増加している。大量生産、大量消費によって、 いったん食中毒や化学物質の混入事件がおこれば、昔では考えられなかったような規模の事件に発展しかねない。 このような様々な社会情勢の変化があり、 もはや40年以上前に作られたガイドラインが機能しなくなったということが 新しいガイドラインが提示された理由である。 ●保育園で生活習慣病の予防教育を がん、心臓病、脳卒中、糖尿病などの生活習慣病が増加している。これを予防するには 子どもの頃からの正しい生活習慣、いいかえれば正しい<食習慣>を形成することが重要であるとされる。 さて、それはどこで行うべきなのか。いうまでもなく、保育園である。 今や保育園はおおくの子どもたちが0歳児から利用する場となっている。今後、男女共同参画社会が進展 すれば、ますますその役割は大きくなっていくことだろう。 こどもの食習慣の形成については、親が与える影響が大きい。どんな食習慣を形成すべきなのか をこども自身にも家庭に対しても教育することは極めて大切な課題となってきているのだ。 こどもにとって、適正な栄養素量を給与し、 正しい食習慣形成に向けた栄養指導を行うことは、 保育園によって今や焦眉の課題となっている。 ●給食マネジメントの確立 どんな業種でも成功するために必要な経営環境はそれほど大きな差異がない。 ・徹底的な顧客指向性:お客様を大切にすること ・技術フレンドリーな姿勢:新しい技術を積極的に導入する ・人材の育成を重視:人がすべて、人を育てることに熱心 ・徹底的な財務指向:無駄を省いて筋肉質の経営 これらは本来は厚生労働省にいわれてやることではないが、今回の改訂では、上記4つのカテゴリーに従って 改訂作業を行うように通知されていると考えればわかりやすい。以下、それぞれの分野について みていくことにしよう。 (1)顧客指向 給食は保育園を選択する際に大きなウェートを占めるようになっている。 保育園は、望ましい給食を実現するためにPlan Do Seeのプロセスでよりいい物を作っていく。 いい給食をつくっていさえすればわかってもらえるというものではない。せっかくいいことをしていても、 それを伝えなければ理解されないことが多いからだ。わかりやすく楽しい給食献立を家庭に提示し、よく読んで もらうようにしたい。献立表をコピーして渡すだけではなく、栄養指導に役立つ給食だよりなどを作成したり、 親子料理教室などの食教育イベントを開催することもいい。いろいろな媒体や機会を通じて、 正しい食習慣を形成するための工夫に努めたいところである。このような活動を行うことが、 地域の人たちに喜ばれ、保育園が評価されることにつながる。 (2)技術フレンドリーな姿勢 これだけの業務を行うためには、もはや手計算で栄養計算をおこなっているわけにはいかない。給食会議で 新たな課題が出て、献立内容を大幅に見直すという必要が出てきた場合でも、栄養計算ソフトがあれば簡単だ。 インターネットに関する進歩は今後も加速されていく。新しい技術を積極的に取り入れ、経営に生かしていく ことが「勝ち残り」に必要な要素である。 著者は保健所や地方自治体の栄養士と連携することをお薦めする。地方都市の場合、自治体栄養士は 各保育園の給食における様々なアドバイスをしてくれる。 食中毒や感染症に関する予防は保健所からの情報が欠かせない。保健所と連携してより望ましい給食環境を 実現することが、給食のリスクマネジメントを行うためには最も近道なのだ。 (3)マンパワーの育成 給食担当者の調理技術の向上はこれからますます大きな課題となる。限られた人員で、アレルギー対応 など多様なニーズに応えるためには調理技術が必要だからだ。もちろん、クックパーなど、業務を簡略化する ためのアイディア商品や設備についての情報を取り入れることも技術向上の一側面といえる。継続的改善活動 と、マンパワーの育成は車の両輪のような関係である。 今回の改訂では特に施設長に対して講習会、研究会等により知識・技術の向上を図ることが強く指摘されている。 新しい「児度福祉施設における給食業務...」では、少なくとも月1回は施設長を含む職員による給食会議を実施 することが義務づけられている。施設長を頂点とする給食改革が叫ばれているのだ。 (4)徹底した財務指向 以上のことを実現しようとすると必然的にお金がかかる。新しい技術を取り入れ、おいしい献立を提供し、 職員研修に積極的になれば、それだけ資金投入をしなければならない。しかし、入ってくる資金はどの園も それほど差異はない。であるとすれば、無駄を省いてコストダウンを計ることが必要である。 ●さいごに 今回の改訂では保育園に「正しい食習慣の形成」という課題があることが示された。 しかしそのために保育園は何をすべきなのかを示したものではない。給食だよりや献立表の開示という ごく限られたヒントが提示されたにすぎない。 その意味では、保育園における食教育プログラムは今始まったばかりなのだといえる。今後、 厚生労働省や文部科学省から食教育のガイドラインが示され、多くのパワーがこの分野に集結することが必要なのではな いかということを最後に指摘しておく。 |
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