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食品価格の競争から食品栄養の競争へ Feb/05/2001


日本の食品は今いろいろな分野で危機にさらされている。長期間の不景気で 消費者の嗜好は変わり、日常の食事のための食品選択では低価格商品が 売れている。反面、健康食品ややせるための食品、きれいになるための食品などがばか高い値段で 売れている状況を見ると、今の日本の食選択行動は極めてゆがんだ状況にあると言わざるを得ない。

食品を選択する場合に何を考慮するかがアメリカで調査された。それによると、

(1)味(2)栄養(3)安全性(4)価格(5)便利さ

という順だったそうだ。日本の場合、このような調査結果を手元にもっていないため 正確にはわからないが、各種、スーパーのチラシ等から拾ったキャッチフレーズ の頻度から判断すると、

(1)味(2)価格(3)便利さ(4)安全性(5)栄養

という順になるのではないか。その順位の確かさはさておき、栄養という要素が アメリカほど高くないことは想像するに難くない。

というのも、日本で栄養という要素をもとに食品を選ぼうにも、栄養バランスを 考慮して食品を選択する指標がないからである。関心が低いため、商品を提供する方も それに合わせて商品開発することができない。「うまくて安い!」が今のところ、 日本における食べ物の売り方だ。

では、なぜ、あのアメリカでは栄養を食品選択の上位にくるのだろうか。

アメリカには、食のピラミッドが浸透している。食のピラミッドは、 炭水化物からの摂取エネルギーを増やし、脂肪からの摂取エネルギーを減らすために 望ましい食品選択をガイドするビジュアルなツールだ。

それぞれの食品群には、1日に摂取すべき量がサービングという数値で表記されている。

アメリカでは、全ての食品にその食品のサービング数が表記されているため、 消費者は、このサービング数に従って食品を選択することができる。

図1を見てみよう。おなじみのピラミッドだ。炭水化物がもっとも大きく、 頂点の脂質はなるべくとらないようにということが図式化されているのだ。

図2は食品に表示が義務付けられている食品ラベルだ。

食品ラベルには、サービングサイズが先頭に書いてある。

食のピラミッドでは、炭水化物、野菜、果物、乳製品、肉類、脂質のそれぞれに 一日で摂取すべきサービングサイズが表記されている。そのサービングサイズの もとになるのが、それぞれの食品ラベルに記載されているサービングサイズとなる。 すべての食品にはこのサービングサイズが表記されているから、 消費者は、どの食品をどれだけ買えばいいのかがわかるのだ。 また、統一フォーマットなので、消費者は食品を比べることが簡単にできる。

このラベルはどんな食品にも添付する義務があるが、もちろん、 食品の形状によっては添付できないものも でてくる。そのような場合には、消費者はスーパーマーケットのマネージャーにどんな 成分なのかをいつでも聞くことができるようになっている。

確かに、日本にも、全ての食品に食品成分を表示させる義務はある。 主要な栄養素については表記されている。 しかし、そのような成分が表示されていても、それをどうやって組み合わせると、 栄養バランス的にみて望ましい食事になるのかが消費者にはわからない。

日本栄養士会では、こうした食品ラベルを添付することを推奨しているが、 食品業界の反対もあってなかなか実現しない。 確かに、お菓子などでサービングサイズを表記すると、売れ行きが落ちるのではないかという 心配があることは理解できないでもない。

しかし、よく考えてみよう。 日本の消費者の食品選択は、価格が上位に来ることは間違いない。 今、日本の食品の消費より低価格の商品に流れるか、あるいは、 不当に高額な安全食品や健康食品に流れるかのいずれかという状況にある。 食品会社がいいものを開発しても、価格が抑えられてしまい、コストをかけられず、四苦八苦しているのでは ないだろうか。

もし、アメリカのように、消費者が食品選択に栄養という視点をもち、それを 重視したとしたら、価格という要素が相対的に低くなり、 多少高くても、より栄養バランスのいい食品を選ぶような消費行動が形成されるのではないだろうか。 その可能性が高いのは、アメリカの壮大な実験を見れば明らかだ。 日本の食品メーカーは、こうした食品ラベルを表示し、新しい消費者ニーズができることで生まれるビジネスチャンスが 巨大であることを認識すべきである。

毎日のように報告される健康食品の催眠商法による被害や実際の生産量の70倍も市場に 出まわっている「○○産コシヒカリ」などの不当表示問題についても 一定の規制をかけることができる。

これらの表示や商法は、消費者が賢くないことにつけ込んでいるために起こる。 もし、食教育が浸透し、消費者が賢くなれば、フードファディズムは抑制され 消費者の行動は変わる。

アメリカは日本より遥かに栄養管理について進んでいる。 これは、日本よりも早く肥満や心臓疾患などの問題に直面し、年間消費している 医療費の大きな部分を占めるようになったのが、日本よりも数十年早かったということを 示している。何もアメリカを無条件に絶賛しているのではない。児童虐待に対する対策が世界一である ことは、児童虐待に関する状況が誠意最悪であることの裏返しであることと同じである。 食に関する状況も、日本の近未来の姿がそこにあるから参考にできるのだ。

規制緩和、自由な市場といっても、正しい情報開示に裏打ちされた公正な競争が起こるための条件設定は必要だ。 食の教育は大切である。これから学校教育場面で食の教育のための様様な取り組みが実践される ことだろう。ただ、アメリカのように、国に食品に関するシステムがなければ、食を教育しても それはただの「知識」であり、食品選択の「行動」が形成されることにつながっていかない。 日本の食文化を護り、日本人の健康を維持するために、政府には強力なリーダーシップが必要である。


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