社会福祉法人の経営管理は今、世はまさに激動の時代。社会福祉法人の会計基準が発表され、
これからすべの社会福祉法人の構造改革が始まる。しかし、給食管理に関しては、ほとんどIT化も
情報公開についても叫ばれているわけではない。この温度差はいったいどこから来ているのだろうか。
今回は、給食業務のコンピュータ化の必要性についてスポットを当ててみた。 通常、コンピュータを導入すとなると、まず会計ソフト、給与ソフトということになる。 保育園の場合、栄養計算ソフトが入っているところは意外に少ない。 私たちがこれまでに財務会計ソフト、給与計算ソフト、栄養計算ソフトを300以上の保育園 に導入した経験からいえることは、コンピュータを導入する場合にもっともニーズが高い のは財務会計分野だということだ。 栄養計算ソフトは意外にもあまり導入されていないのが実態だ。 昨年の11月にアメリカ東海岸の老人福祉施設を見学してきたが、 栄養の計算については見学したところはすべてコンピュータによって処理されていた。 アメリカの場合、RD(管理栄養士)は医師、看護士(RN)とチームを形成して メディカルケアや福祉サービスにあたる。 日本の場合、医療現場ではもちろんコンピュータが100%普及しているが、 医療との関係の差が影響しているのかもしれない。 栄養士というと「事務室で栄養計算している人」といったイメージがある。 給食施設に義務付けられた栄養報告書を作成するためには、気の遠くなるような 回数、電卓をたたかなければならないため、そんな「悪いイメージ?」が定着したのだろう。 栄養計算は、給食に使用した食材ごとに栄養素を調べることが基本だ。 食品成分表に従ってエネルギー、たんぱく質、脂肪、カルシウムなどの栄養素を検索し、 各栄養素の項目に集計していく。 つぎに、食品群別に使用食材を分類し、給与量を集計する。 仮に、1回あたり、30品目の食材を使用して給食が作られるとしよう。 給食栄養報告書で報告する必要のある栄養素を12項目とする。 そうなると、1食材あたり、最低でも12項目の転記が必要になる。 一方、食品群の集計は使用材料当たり、1回の集計でよい。 この作業を、3才以上児、3才未満児、乳児、大人の4グループごとに行うから、 1日あたりの計算回数はおおよそ次のようになる。 計算(転記)回数=30×(12+1)*4 =1560 手計算で栄養計算を行えば、栄養士は、毎日2時間くらいは栄養計算に費やされる。 計算は概算であるが、だいたい近い数値がでているのではないだろうか。 これを1ヶ月25日行えば 月当たり計算回数=1560×25 =39000回 ということになる。 実際の給食現場では、これに発注作業と在庫管理、食材の棚卸し作業が加わる。 たいへんな労力が単純な計算に費やされていることになる。 これに対し、コンピュータがなければ不可能とまでいわれる財務計算の場合はどうだろう。 これまで、保育園現場を見てきて、だいたい月当たりの取り引きは300件以下の園が ほとんどだった。200件程度が1ヶ月の平均的な取引数ではないだろうか。 社会福祉法人会計は新しい会計基準が適用され、これまでよりも、しくみが 複雑になった。とはいえ、基本的な仕組みは複式簿記のルールどおりだ。 つまり取引を借方、貸方双方の勘定科目ごとに加算していくだけだ。 計算回数=200×2 =400 取引を各勘定科目分解し、それぞれ加算する作業は、栄養計算で言えば食品群別集計に相当する。 会計処理の場合、未払い、未収、預り金の処理や請求業務があるとはいえ、 食材の発注業務と比較して作業量が多いというわけではない。 栄養計算と簿記の計算回数を比較した場合の作業量の差はこのように歴然としている。 栄養計算を手計算で行えば、そもそも転記間違いを発見することが極めて難しい。 もともと、給与した栄養量を正確に測定することが栄養計算の目的ではない。 おいしくてしかも栄養バランスのよい食事を提供するための管理が目的であるから、 計算プロセスがしっかりしていさえすれば、それでよしとする方が懸命だ。 しかし、栄養計算をすることが目的になり、本末転倒になると結果は悲惨だ。 同じ献立を繰り返し使ったり、できるだけ食材を減らして計算の手間を省くことになる。 ひどい場合には、発注した材料から「逆算」して栄養価を計算している場合も見受けられる。 ●栄養計算ソフトの導入はこれからの保育園の経営管理に必須 朝から厨房に入り、昼には片付け、3時のおやつ、 発注業務、献立立案、延長保育の軽い食事づくりなど次から次に業務に追われ、 ほとんど栄養価計算ができず、監査前になると献立表を家に持ち帰り、 現況報告書を作成するために徹夜の毎日という、目を覆いたくなるような現実 の中で、こどもたちの給食づくりを行っている保育園が少なくない。 計算と発注管理に追われているようでは、経営管理まで到達することができない。 考えてみれば、このような単純作業のために 月に何万回も電卓をたたかなければならないのは今どき不合理ともいえる。 こどもたちの食の問題は年々深刻になりつつある。 アレルギーの問題、糖尿病の若年年齢化の問題、弧食や個食の問題など 21世紀を担うこどもたちの未来を左右しかねない問題が山積している。 社会福祉法人の基礎構造改革が進み、いよいよ平成15年から本格的な大競争が始まる。 そのときに、ものをいうのがサービスの品質と情報分析能力だ。 これまでは、「監査があるから栄養計算する」でよかったが、 これからは「良いサービスを低コストで実現するために栄養計算する」時代になるのだ。 栄養士は、持っているナレッジとエネルギーを栄養指導に注ぐようになるべきだ。 私たち栄養管理にかかわる人間がそのことをしっかり認識し、給食業務の 合理化を一刻も早く実現することが大切なのではないだろうか。 |
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