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書籍紹介 こどものための栄養教育 2000/11/09

平成14年から日本の学校では「生きる力」の育成に重点を置いた新しい教育課程が導入される。 その際、「総合的な学習の時間」が導入され、これまでのように教科のわくに縛られない学校独自の学習活動が展開されることになる。 しかし、食教育はまだ体系化されてはいないため、理念や方向性について、現場においては試行錯誤が強いられることになる。 そこで、一歩先に統合的な栄養教育が始まった米国の栄養指導関連書籍を紹介し、食教育の基本的な理念について考えてみたい。



「総合的な学習の時間」のメインコンセプトは「生きる力」。体験的で問題解決的な活動を中心に自分で考え、 自分の言葉でコミュニケーションし、行動していく力を育てることを目的としている。

なかでも、望ましい食習慣の形成や生活習慣病の予防に言及していることに注目したい。 これまで、日本では「食教育」については、家庭科や保健体育などの時間を使って授業が行われてきた。 食べることは生きるために最も基本的な活動であるが、あまりにも基本的であるがゆえに、 これまでは学校における学習活動の対象とはならなかったのかもしれない。 しかし、こどもたちが置かれている現代日本社会の状況をみれば、 どう食べるのかを学校で学習しなければならないような危機的な状況になっているのは明らかだ。

「生きる力を育てる」という基本方針が文部省から打ち出されたのは、こどもの食に関心を持つものとしては大きな追い風にちがいない。 どんな食べ物を手に入れればいいのか、どうやって手に入れるのか、 どうやって調理したらいいのかなど、「食」は生きていく力に直結するテーマ性をもっている。

前置きが長くなったが、ここで、アメリカの管理栄養士が著した栄養教育の専門書を紹介しよう。 「How to Teach Nutrition to Kids(こどものための栄養教育)」と題されたこの書籍は、 全編に言語、数学、科学、社会、美術、身体運動を統合した200以上の教育活動が紹介されている。 日本でも食教育に関する指導案が集められた書籍はあるが、ひとりの著者が記述した実践方法がこれほど豊富に集められた書籍はない。 総合的なアプローチが始まったばかりの日本でこの種の書籍がないのはむしろあたりまえなのかもしれないが。

著者はこの書籍の紹介で、以下のような点に力点をおいていることを述べている。

・ ポジティブな食の態度を養うためのガイドラインである。
・ 栄養教育のためのF・I・Bアプローチ(後述)を行っている。
・ 「食のピラミッド」と成分表示ラベルがこどもにとって有意味なものにするための方法を記述している。
・ 言語、算数、科学、社会、美術、体育を含む栄養の総合的な学習活動を200以上掲載している。
・ こどもが作って食べられる、食品を使った楽しい創作物をつくる活動を掲載。
・ 食教育に配慮した食堂の設計についてのヒント。
・ 食教育に関する参考文献や教育ツールのリストを掲載。

特筆すべきことは、食教育の基本理念として、「楽しみ(Fun)・総合(Integrated)・行動的(Behavioral)」という3つの柱を提唱していることだ。 まさに、日本でこれから近未来で起こる食教育の方向性がこの書籍の中に示されているといってもよい。 ここでコニー・エバースがこの書籍の中でFIBアプローチについて述べている部分を紹介してみよう。

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私自身、これまで管理栄養士になる過程で、こどもたちに栄養を教育する方法について訓練されてはこなかった。 大学の教育では栄養の基礎的な化学と栄養管理の原理についてほとんどの時間を費やしてきた。 私は決して実験動物に亜鉛を与えたときの反応とか、給食の配膳ラインの効果というものが重要ではないといっているのではないが、 こどもたちが食事をするときの心について実践的に把握することはできなかったといってよい。
(中略)
効果的な栄養教育に必要なことは、つきつめていえば、「楽しい活動であること」 「総合的な教科として教育しなければならないこと」「行動変容的であること」に集約することができる。
(中略)
栄養は教科以上のものだ。健康教育や体育と同じように、目標は単に知識の獲得にあるのではない。 こどもたちの毎日の食行動に変化を生み出すことが目標だ。野菜やくだものには栄養があるということを知るだけでは不十分。 オレンジをよりたくさん食べることが最低限のゴールにならなければならない。

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いわれてみれば至極当然のことではあるが、この当たり前のことを私たちは忘れがちだったのではないだろうか。 特に、食教育によって実際にこどもたちが毎日食べる行動が変容することを強調している点が重要だ。 そしてその方法論が明確に記述されている点がこの書籍の優れている点でもある。

コニー・エバースが指摘している食教育の状況は、驚くほど日本の食教育の課題と酷似している。 これから総合的な学習の時間で食教育の指導方法を開発しようとしている教育関連スタッフには必見の書であることは間違いない。

書名:
HOW TO TEACH NUTRITION TO KIDS(第4版)
An integrated, creative approach to Nutrition Education for children ages 6-10

著者:
Connie Liakos Evers

出版社:
24 Carrot Press
出版:1995
ISBN 0-9647970-3-8
$18.00

● 著者紹介
コニー・エバース 管理栄養士 こどもと青年のための健康コンサルタント
これまでに新聞コラムや雑誌で栄養教育関連の記事を100以上掲載している。
クリエイティブな栄養教育プログラムについての造詣が深い。



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