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多品種混合栽培の可能性 2000/08/29

イネの混合栽培を行うと病気を防ぐことができる。 中国で数千の農家が参加して、混合種のイネを栽培する壮大な実験が行われた。 結果はカビを原因とする病疫の予防につながる画期的なものであった。 混合栽培は、品種ブランドに血眼になる日本の消費行動を変えることができるかもしれない。

■中国で他品種栽培の実験が行われる

複数種でイネを栽培すると カビなどを原因とする疫病に対する耐性を高めることが できるという研究がネイチャーに掲載された。 実験が行われたのは中国だ。

数千にわたる農家がひとつの水田で複数の種の稲を混合栽培すると、稲がある種の カビによって引き起こされる病気について耐性を持つことが示されたのだ。

混合栽培をすると、なぜ病疫に対して耐性が生まれるのだろうか。

混合栽培をすれば、収穫量は増えることは古くからわかっていた。 ダーウィンは混合栽培は単一栽培よりも全体の生産量は増えることを知っていた。 しかし、当時、この減少を説明する理由を見いだすことはできなかった。

その理由は複雑である。ある種のカビが一気に広がらないのは、 イネの大きさが多様であることや、遺伝的な多様性など様々な理由が考えられる。

■イネがブランド化されたことの功罪

単一種でイネを栽培することは、近代農業が発展するに従って常識となっている。

単一種を栽培することは、農業の効率化を進める上でたいへん重要な事項だ。 単一種であれば収穫次期をそろえることができる。 背丈もだいたい同じなので、田植えや収穫時に必要な作業を機械化することも容易になった。 農薬などの開発についても、単一種の方が容易である。 結果的に単一種の栽培が近代農業の主流となった。

消費者の品質に関する関心の高まりも、単一種の栽培を加速させた。
もし、作物が混合栽培されているとしたら、消費者は作物の品質に関する情報を 得ることが難しくなるかもしれない。農作物の品質管理の視点からも、単一種の栽培が 必要であった。

農家にとっては、どの品種のイネを選択するのかが重要な選択になる。
現在では、イネの栽培に市場原理が働いているため、農家はどの品種を 選択するのかが決定的に重要な経営戦略となっている。

日本の場合、消費行動があまりにも偏向する傾向があるため、特定の売れ筋品種を栽培しなければ、 付加価値がない商品として処理されることになる。

現在、イネの遺伝的な多様性は極めて減少してしまっている。
考えてみれば、私たちがついつい購入してしまうイネの「ブランド」は 非常に限られている。 コシヒカリ、ササニシキ、キララ、アキタコマチなどだ。

イネを単一種栽培するとひとつの病気が爆発的に広がる可能性が高まる。
そのため、イネの品種改良をすることになるが、また新たに新種の病気が生まれる。 まるでイタチゴッコなのだ。

■ブランド戦略の転換

最近の自主流通米価格の大幅な下落による影響は非常に深刻だ。 特に今年は作況が良く、生産調整のために戦後初の青田刈りが行われるという。

価格の下落を防ぐためには、付加価値を創造することが必要だ。
ただ、これ以上品種ブランドに付加価値を見いだしていくことは難しい。 仮に、これまでにはなかったようなとてつもなくおいしい品種が生み出されたとしても その品種の生産が集中し、特定の病疫に対するリスクが増加することになる。

一方、多品種の混合栽培を行うと、収穫のコストは別として、 多くの利点がもたらされる。

この論文では、多品種混合栽培が、作物の品質を改善する可能性についても述べている。 混合栽培の方が、作物の栄養学的な価値は高くなることが予想されるとも述べている。 高価な遺伝子操作などのハイテク農業を用いなくともそれが実現できるのだ。

今回の実験のように、数千の農家が他品種のイネを栽培するという試みは 農業が環境に対していかに調和していくかを示したものと考えることができる。 混合栽培により、特定の病疫に対する耐性が高まる。防カビ剤や農薬の使用量を 減少させることができるからだ。

環境と農業の調和という視点は、現行の農業政策にはなかった新しい視点だ。 こういった試みが消費者に受け入れられ、新しいブランドとして定着することに 成功すれば、農家にとっても新しい付加価値を生み出すことができるのではないだろうか。

そのためには、現在のように、単に「無農薬」「低農薬」「有機」といった漠然とした イメージ戦略ではなく、より精密な情報の伝達方法や消費者に対する印象づけが必要である。 農業が環境保全に貢献していることや栽培方法が都市の生活を護っていることなどを 正確に印象づけることに成功したとき、消費行動の変化を呼び起こすことができるのではないだろうか。

■コメの消費量が増えないことには

以上のことがらは、農家の方から絵空事だとのお叱りを受けそうである。

確かに、いくらブランド戦略を駆使しても、コメの消費が低迷している中では 付加価値競争は意味をなさない。今年の青田刈りが象徴している。

コメを消費するためには、食生活を変えなければならない。そのためには どうしても保育園や小学校の教育の場から、食生活を見直し、主食をコメに変えていく 必要があるのではないか。

給食でご飯を導入した小学校が増えてきているが、パンと牛乳に依存してきた 戦後の食教育政策を見直す次期にさしかかっている。


参考
Nature 406, 681 - 682 (2000) c Macmillan Publishers Ltd.
Crop strength through diversity

MARTIN S. WOLFE


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