日本の食品成分表は成分の豊富さ、正確さで今や世界一のレベルになっている。ところが、非専門家ではない一般の人たちは食品成分表を使用しているだろうか。
あまりにも専門的で、かえってこれらの書籍を扱う書店が減少してしまっているのが実状ではないだろうか。
そこで、アメリカでベストセラーとなっている「フードカウンター」をご紹介し、食品成分に関する書籍がなぜ売れているのかについて、その秘密を探る。
■まるでポケット版英和辞書のような装丁
写真は、The Nutrition Doctor's A-TO-Z
Food
Counterだ。写真でみるとわかりにくいが、その大きさはちょうどハンディタイプの英和辞典とほぼ同じサイズだ。紙質は昔懐かしいグレーのわら半紙。開くとインクの臭いがする。
この本には一般的な食材と市販されている食品を合わせ、10,000品目以上の食品が掲載されている。食品はアルファベット順に並べられ、辞書を引くように検索できる食品の成分辞書と考えればイメージをつかんでいただけるのではないだろうか。
1品目の記載内容を見る。内容は品名、サービング量、エネルギー、たんぱく質、炭水化物、繊維、塩分、FAC(後述)の含有量という構成になっている。
食品にはいろいろな呼ばれ方がある。そのため、この本では同一の品目が別名で重複して掲載してある。
食品に含まれる栄養素リストだけではなく、葉酸、抗活性酸素食品、カルシウム、カロリー、脂肪、たんぱく質、炭水化物、繊維、塩分などに関する体に対する働きなどの基礎知識も掲載されている。
お値段は6.50USドルと安い。アマゾンドットコムの書籍販売情報ではこの分野ではトップクラスの売れ行きを示している。
■FAC
表記方法が日本とは異なるので、ここで簡単に説明してみよう。
Serb.:サービング
1人分という意味。市販食品の場合でも、一般的な野菜でも、1食あたりの1人分に相当する量に換算して表記される。摂取量は1人分に含まれる炭水化物やたんぱく質などの量ということになる。
単位は1カップであったり、1オンスであったり、1テーブルスプーンであったりする。
F:Folic Acid 葉酸
核酸(DNA、RNA)を作るのに大切な働きをしている葉酸について成分表記をおこなっている。
健康的な皮膚の再生や、母乳、赤血球を作るのに不可欠な物質で、近年、心臓疾患や母子の健康管理上注目されているので掲載したという。
A:AntiOxidants:抗活性酸素成分
抗活性酸素成分が含まれている場合にはAの記号がつく。抗活性酸素成分とは、いいかえれば、ビタミンE、ビタミンA、β−カロチン、ビタミンCなどだ。
C:Caluciumカルシウム
表記方法は例えば、卵の場合以下のようになる。
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Ser. K-Cal Fat Prot. Carb. Fib. Sod. FAC
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Egg,Chicken
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(Also See Omlet) |
Whole
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Raw |
1CUP 362
24.3 30 3 0 306 FA
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つまり、FACについては、1人分で脂肪とたんぱく質が摂取でき、葉酸と抗活性酸素成分も同時に摂取できるということを意味している。
■日本の食品成分表と比較して
(1)摂取量を単位として食品に含まれる量が表示されていること。
単位が1人分(サービング)で換算してあることは日本と相当違う感覚だ。非常にアバウトであるといっていいが、反面、実践的でもある。
1食の食事を摂取すると、だいたい、こんな感じになるかなということを、簡単に求めることがねらいであることがわかる。
(2)FACはコンパクトで便利な表記方法
日本の食品成分表は今や世界一詳しい内容になっている。これからさらにより詳しくなっていく予定にある。
それに対しこの本では、ビタミンEでもビタミンCでもβ−カロチンでも、すべてFACにまとめている。この本を開くとFやAの表記が以外に多く、いやでも眼に飛び込んでくる。
「ああ、こんなに抗活性酸素の食品はあるんだな」ということが直感できる。
■日本にもほしい食品辞典
わが日本にも、より低コストで、電話帳のように一定期間が経過すれば使い捨てできるような食品辞書があるとありがたい。だが、なかなかこういったセンスの栄養に関する情報を得られる書籍は出版されない。
そのような本が出ないのはおそらく売れないからだろう。私たちはついつい紙面いっぱいに広がったフルカラーの料理写真が掲載されている本を選んでしまう傾向がある。書籍の販売システムにも問題があるのかもしれない。
そのあたりの行動を自ら変えていく必要もあろうかと思う。
テレビ番組でポリフェノールがチョコレートに含まれると紹介されれば、翌日チョコレートの売上は急上昇し、麦茶が血液をサラサラにするとなれば、緑茶を止めてみんなが麦茶に走る。
まるで、ある栄養素が含まれる食品は1種類しかないと考えているかのような行動をとってしまいがちだ。
栄養に関する情報を伝えるときには、どうしても、「葉酸は、老化を防止し、....レバーやほうれん草に含まれます。」と説明するスタイルになりがちだ。この説明スタイルがそういったレミング行動を引き起こしている原因のひとつになっているのかもしれない。
もし、ここで紹介したスタイルの書籍が普及していれば、消費行動に影響が出るかも知れない。問題を解決するのはひとつの食品だけではないということを実感できるからだ。健康食品に偏向することも抑制されるかも知れない。
予防医学を確立することは、高齢社会に突入した今となっては待ったなしだ。そのために必要な情報を、どういうメディアで提供するのかをもっと検討しなければならない。書籍は古来からの情報伝達手段。インターネット時代になってもその地位は揺るがない。
栄養についての知識がゆがめられずに利用されるためにも、わが国にも「買い物の際に気軽に利用できる食品辞典」が登場することを期待したい。
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