マスコミを通じて連日流される健康関連情報。私たちは、知らず知らずのうちに
正しい判断ができなくなっていることはないだろうか?今回は、フードファディズムを取り上げ、
食教育の方向性を今一度確認してみたい。
■フードファディズム あいかわらずの健康ブームだ。長期の不況下にあるとはいえ、世界的に見れば経済的に豊かなわが国が、 世界一の高齢化社会になり、ますます健康ブームは加熱することだろう。よほどのことが起こらない限り、これ から数十年間、私たち日本人の最大の関心事が「健康」であることは間違いない。 ファドということばがある。直訳すれば熱狂的で一時的な流行ということだ。食品に対して熱狂的な流行にとらわ れることをフードファディズムという。 アメリカ栄養士協会は、フードファディズムは、「食品が健康や病気に対して過大に影響があると信じ込ませながら 行われる栄養に関する実践」と定義している。これには特定の食品が病気を治したり、ある食べ物が有害であるとし て除去されたり、特定の食品が独特の健康的な利益をもたらすといった特定の効能を、根拠もなく過大に評価する ことを含んでいる。 日本では、高橋久仁子氏が「食べもの情報」ウソ・ホント(講談社)でフードファディズムをわかりやすく紹介しているので是非参考にしていただきたい。 ■フードファディズムの経済学 健康に関心が高まれば高まるほど、少しでも「からだにいいもの」「若さをたもつもの」「美しさをたもつもの」などに 関する情報を求めて人々は動く。そして、この長引く不況と世界一の貯蓄高。 人々はお金を持っていないから消費しないのではなく、将来に対する漠然とした不安があるからお金を使わないの だとよくいわれる。その証拠に、本当にほしいと思っているものは、むしろ爆発的に売れていることがビジネス誌など でよく紹介されている。今の日本では、健康志向から特定の健康食品が集中的な消費の対象になる可能性が高い。 日本でフードファディズムが蔓延する条件は完璧にそろっている。 1984年、アメリカ合衆国下院議会は「健康に関する詐欺的なビジネスは大きなビジネスに成長している。25年前、 健康詐欺は1−2億ドル市場といわれていたが、今日は、おそらく年間数十億ドルに達している。」と報告した。 日本においてはどうだろうか。もちろん、すべての健康関連商品が詐欺的なものではないので数値を上げることが難しい が、規制があるために、アメリカ程ではないにしても、似たような状況だろう。宗教による被害も加えたら、アメリカ合衆国 を上回るかもしれない。 βーカロチン、オレイン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)クロレラ、有機野菜、無農薬野菜、天然酵母、有精卵、プロポリス、 オリーブオイル、黒砂糖 これらの物質や食品は、繰り返しマスコミを通じて、からだによいものとして消費者にアナウンスされる。科学的な感じが するし、体験談が紹介されていたりして、消費者は信じ込みやすい。 に;「科学的」でないがゆえに逆に引き込まれるものもある。最近はやっている深層水は、神秘的で、人智の及ばないと ろにあるようであり、おもわず魅力を感じる商品だ。 BR> 逆に不当に嫌われる食品もある。グラニュー糖、L−グルタミン酸ナトリウム、炭酸飲料、コーラなどなど。 ■ファディズムから遠ざかるには はっきりいえることは、単独で健康を保障するいかなる食品も存在しないし、単独で健康を害してしまうような食品もないと いうことだ。この明快な考えが広がらないのは消費者の問題だけではなく、栄養に関して情報を提供する側にも問題があるかも しれない。このホームページを含め、マスコミなどの情報提供者側にも、新しいファディズムをつくってしまう可能性があるこ とを認識しなければならない。 また、逆にすべての健康キャンペーンに対して「フードファディズム」として切り捨ててしまう姿勢もよくない。 これは、いわゆる「知識人」が陥りやすい罠だ。あるテレビ番組で、食教育の重要性をアピールしたレポートがあったが、 コメンテータが「こういったことは信用できない」と切り捨てていた。食品の健康に対する影響を過小評価することも、 フードファディズムの一形態だといえる。 不幸にも、わたしたちは、専門家であれ、一般消費者であれ、栄養に関して、何が過小でも過大でもないほどほどの情報 なのかを判断することがたいへん難しい状況に置かれている。 だが、健康な生活を送るために、必要なことは、単純で、ありきたりで、平凡だ。 「バランスのとれた栄養と、適度な運動と、休養。それを規則正しく繰り返すこと。」 わかっているけれどもそれができないので、なんとか簡単に健康を手に入れる方法を探したいのだ。 実はライフスタイルを変えない限り、健康を手に入れることは難しい。生活習慣病から遠ざかるようなシンプルなライフスタイルが、 そもそもフードファディズムから遠ざかり、健康を手にする近道なのだ。 私たちは、消費者の財産と健康にとって、食品と栄養に関する誤った情報は有害であるとする立場をとっている。 シンプルで平凡であっても有意義な情報をこれからも提供していきたい。 参考: Pepper C. Quackery: A $10 Billion Scandal. Washington, DC: US Government Printing Office; 1984. Subcommittee on Health And Long-Term Care of the Select Committee on Aging US House of Representatives, publication No. 98-435. |
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