感覚は使えば使うほど鋭くなる。しかし、味覚の場合、食べ物を摂取する行動時の感覚であるため、
「使えば使うほどといい」というわけにはいかない。
ではどうすれば、味覚を育て、健康を増進することが出来るのだろうか。味覚教育のポイントを考えてみた。
■意識とともに鋭くなる味覚 ある栄養士養成短期大学の学生を対象に、料理の味つけについてどのように感じるかについて 調査を行ったところ、2年生のほうが1年生よりも味付けが濃いと感じる人割合が増加するという 結果が得られた。栄養学のプロになるに従って、塩分の問題が意識化されてくるともとれるし、 スキルアップによって味覚が鋭くなってくるともとれる。もっとも、感覚に対して意識を集中させる 経験をつむことが、感覚刺激の弁別閾に影響を与えることは、どんな職業にも通じる経験則ではある。 味覚は生活習慣によって影響を受けやすい。激辛ブームが流行ったときには、おそらく多くの日 本人の感覚閾値は低下してしまったと思う。なるべく薄味に慣れ、味に対する感覚を鋭くしていき たいものだ。そのためには、食物を味わって食べる習慣の形成がポイントとなる。 ■味わいと健康 食べものを噛めない、飲み込めないという人たちが増えてきているという。今後、ますます高齢 社会になるに従って、嚥下障害に対する対策は重要になってくるだろう。 嚥下障害は飲み込むという動作についての障害だが、これには咀嚼の問題、舌や唇の動かし方、 歯の健康、唾液の分泌の問題が相互に深く関わっている。従って、嚥下障害のリハビリテーション では、ほとんど、スピーチセラピーと同様の動作訓練を行う。 味わって食べる習慣をつけることは、嚥下障害を予防する上で決定的に重要だ。食べ物を 味わうということは、こどもたちの健康の基礎をつくる上でとても重要な要素だ。食べ物を味わう 習慣を形成すると次のような効果がある。 ・口腔内消化をうながす。 ・唾液の分泌を促進する。 ・唾液の分泌により、う歯の予防につながる。 ・口臭を防ぐ。 ・顎の骨の形成をうながす。 ・歯の発育を促進する。 ・満腹感をはやく感じるために肥満の予防につながる。 味覚は生物にとって最も基本的な感覚のひとつ。おそらく、科学が進むに従って、もっともっと味 覚と健康の関係が明らかになっていくだろう。 ■味わいのある人生を 家康は食べ物を良く噛んで飲み込むことを実行したが、家康の直系である、歴代将軍の顎の骨は、 当時の一般庶民の顎よりも小さかったという。 日本人の若者の顎は、今世界で最も小さい部類に入る。日本人が韓国に旅行に行くと顔を見れば 一目で日本人であることがわかるという。遺伝子的には極めて酷似している民族どおしにもかかわ らずだ。観光地の売店の店員は、歯並びが悪い、顎が小さいなどの顔の特徴で日本人を見分けて いるのだという。 顎の骨が小さくなったのは、やわらかい食品が増えたことによるといわれているのだが、忙しい生活 スタイルにより、ゆとりを持って食べ物を味わうことが少なくなったことによる影響も無視できない。 コンビーニエンスな生活スタイルが普及しても、土台となる健康が損なわれてしまっては、結果とし て生活の質(Quality of Life)は低下してしまう。将来、こどもたちが自立し、質の高い生活を送る大 人になるためにも、味のある食教育を実践していきたい。 |
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