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ここまで来た、バイオ。「クモ毒入り穀物」の可能性 2000/06/09

バイオテクノロジーの発展はとどまるところを知らない。これまでにも人類に様々な福音をもたらしてきた。 一方、バイオテクノロジーに異を唱える動きも連動して高まっていく。 今回は、クモ毒の、穀物遺伝子への組み込みの可能性について話題提供する。

■クモ毒素入り穀物の発見

米国コネチカット大学ファーミントン保健センターのGlenn F. Kingらは、人間には安全であるが、 特定の昆虫の神経系を破壊し、死滅させる低分子量のクモ毒素系タンパク質分子を発見したと、 Nature Structural Biologyの2000年6月号に発表した。

今回発見された毒素に、ゴキブリが接触すると、身を震わせ、激しく足をぴくぴく動かし始めるという。 同じ毒素をゴキブリに注射すると、麻痺状態になり、死んでしまうらしい。

Kingらは、遺伝子工学により、穀物が自らクモ毒素系殺虫剤を産生するための遺伝子を、 穀物に組み込むため、2社と研究提携の交渉を開始したという。 そうなると、近い将来、「クモ毒入り米」が市場に出回るかもしれない。

自然界が生み出す物質は実に多様だ。特定の種には安全であるものが、別の種には毒性が高いものがある。 例えば、タマネギは人間にとってはまったく問題がないが、犬には毒として作用する物質を含んでいる。

Kingらが将来生み出すバイオ穀物は、もちろん人間にとっては安全な食料品になるだろうが、 それ以前に、「クモ毒入り米」というのも、ちょっと食べるのは遠慮したくなってしまう。 これは、飽食の国に安穏と暮らす人間のエゴなのだろうか。

■食糧危機が背景に

世界中で爆発的に増加する人類を養うためには、全世界の穀物生産量をこれから20 年間で現在の2倍にしなければならないとする予測がある。ところが、現在、世界の穀物類の ほぼ3分の1が害虫(主にガやチョウの幼虫)に食い荒らされているという。 だから、害虫に食い荒らされるロスを少なくすれば、その分、人類を救えるという論理だ。

様々な殺虫剤の開発により、昆虫自身の免疫力も高まっている。 遺伝子工学による解決策は、強力な殺虫剤を大量に散布することに比べたら、 環境的なダメージや人類に与えるダメージがより少ない方法であるというのも肯ける意見ではある。

■「食事指導」の効果は、「クモ毒入り穀物」をうわまわる

一方、わが日本で外食産業が毎年残飯として処分している食物の一人当り平均エネルギー量は、 アフリカのある国の年間摂取エネルギー量をうわまわってしまっているという報告もある。 調査データに拠らなくても、いかにもあり得る話だというのは、日本人なら誰でも実感することだ。

私たち、食教育に携わる人間は、この問題を遺伝子工学的な立場から解決することはできないが、 望ましい食行動を形成することによって、穀物生産と供給のアンバランスの問題に、 なんらかの解決策を提言することができると思う。

というのも、肉類や脂質の消費が減少すれば、必然的に、家畜の食べ物となっている 穀物消費量がその何倍も減少するからである。食事のバランスを考えれば、肉類の摂食を より減らさなければならないのは明白だからだ。

食事指導によって減少する家畜によって消費される穀物は、それは、 おそらく、「クモ毒入り穀物」の登場によって害虫から救える穀物の総量を、 はるかに超えることが予想できる(と思う)。私たち食教育のプロフェッショナルの役割は 人類の未来にとってとてつもなく大きいのだ。


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