保育所給食ではじめるアレルギーの一次予防

保育所給食ではじめるアレルギーの一次予防

株式会社アドム　管理栄養士　佐橋祐佳里

■高まるアレルギー対応の必要性

　今、全国各地の保育所で、アレルギー対応への必要性が高まりつつある。アレルギーを持つ子どもの母の会の動きも活発化つつある。厚生労働省の食物アレルギー検討委員会も保育所での現状の対応を推奨しており、これまでのように「アレルギーのある子どもは入園をお断りする」という対応では済まない時代がやってきた。これまで、アレルギー対応といえば（１）原因食品の除去、（２）原因食品を除去し代替品を提供する、（３）弁当を持参するといったもの。これらの対応方法にはいろいろと問題があることも事実だ。違うものを食べなければならないという心理的なストレスや、保護者の孤独感／疎外感もある。保育所の調理設備・環境の問題や調理士・保育士を含めた職員配置上の限界もあろう。アレルギーのある子どもに対する医師の治療法が不統一であったり、指導内容がわかりにくいというような治療方針の問題も影響してくる。

■卵と牛乳は過剰摂取？

　牛乳と卵をアレルゲンとする子どもは、０-6歳の幼児の全食物アレルギー児全体の60%～80%に達するといわれている。私たちはアレルギーに対応する給食を実施する前に、家庭で９日間のたんぱく質源の喫食状況を幼児のポーションサイズによる４段階点数法で調査した。結果は肉類と卵、牛乳については過剰に摂取しており、魚類と大豆・大豆製品については不足していた。これは保育所では卵と牛乳を調理に使用しなくとも十分に栄養補給されていることを示している。

■給食で卵と牛乳を使用しない

　アレルギー対応として、卵と牛乳を給食に使用しないようにするといろいろな利点がある。

（１）家庭での食教育能力の低下を補うことができる。
（２）園児の一日トータル栄養摂取のバランスが改善される。
（３）多種類の食品から栄養素を摂取することができる。
（４）噛む力や味覚の発達に良い。
（５）60～80％のアレルギー園児に対応できる。
（６）労力を重度アレルギー園児への対応に使うことができる。
（７）アレルギー疾患を持つ園児やその保護者のストレスが軽減する。
（８）調理室での除去食品の混入リスクが低下する。
（９）保育室での誤飲リスクが低減する。

　一方、卵と牛乳を使用しない場合の問題点がないわけではない。

（１）偏食が多い子どものストレス。
（２）職員が食事に物足りなさを感じること。
（３）食材の工夫と調理の工夫が必要である。
（４）献立を作成する際に技術が必要となる。

　牛乳と卵を使用しないでも、バラエティーに富んだ料理は可能だ。昔ながらの食材や調理法を積極的に取り入れたり、豆乳等を使った洋食レシピを作成するなど、見た目や色にこだわることも大切である。

■栄養ケアマネジメント

　卵と牛乳さえ使用しなければアレルギー対応になるかといえば現実にはそうではない。アレルギーをもつ子どもは個別に様々な対応が必要であり、しっかりとした個別の栄養ケアプランを立てて対処することが必要だ。

（１）アセスメント

　ケアプランでは保護者のニーズ、家庭の状況を把握する。ケアプランをもとに保育園と家庭とが一貫性もって予防とケアにあたり、継続的な予防とケアを行う必要がある。

　アレルギー対応では、病状、園児の健康状態、身体状態の把握のために医師の意見書が必要となる。今回の研究では、オリジナルの主治医の意見書を作成し、地域医療全体でその意見書を共用することになった。意見書が共通化されることで、アレルギー対応についての医師の対応に関し、地域医療の連携が促進されることにつながった。

　その他、栄養状態の評価・判定や喫食経験の有無などの食事調査をしっかりとしておくことが重要である。

（２）ケアプラン

　対象者が重度アレルギー疾患である場合、規制の多い集団給食の中では、厚生省の示す保育所栄養給与目標量を全て充足することが難しい。そこで1日中のどこでどんな栄養補給をするかが重要な課題となる。

　特に保護者と一緒に栄養補給の計画を立てるとよい。現在の栄養状況を説明し、保護者からの質問に答え、安心してアレルギー治療を行うことができるようにする。調理のポイントや献立作成のアドバイスなど必要な情報も提供できる。

（３）実施・評価

　計画通り実施し、実施後も、保育園と家庭とが医師の指示の内容に沿った治療法で適切なケアできているかを見なおす必要がある。

（４）リスクマネジメント

　事故が起こった時の対処法や園児への処置について、十分に検討しておくことが大切だ。

■重度アレルギー児献立

　こうした対応を行っても、重度アレルギー児にはやはり個別の対応が必要となる。今回の実践では、離乳食食材を使用することとした。離乳食はもともと消化器官が未成熟な段階における栄養補給法であり、重度のアレルギー児にはなじみがいい。また、曜日別使用食材の固定化や保育所給食使用食材一覧表の作成するなど、保育現場で対応を誤らないような工夫を行っている。

　重度アレルギー児への対応でもっとも重要事項なのは①医師の指示に従うことと②対応方針を保護者と一緒に決定することにつきる。保育所独自で対応することには限界もあるし、間違った対応を続けることによって、症状をさらに悪化させてしまう危険性もある。家庭との連携がとれていない状況で保育所の給食だけを改善しても意味をなさないことも考えられる。

■アレルギーの一次予防

　アレルギー対応給食はことばを変えて言えば「アレルギー一次予防給食」だ。和食を中心とした献立で、できるだけ新鮮な食材を使用する。アレルギーの一次予防で特に重要なのは離乳食だ。注意深く離乳食を進め、その後幼児食になったらゆったりと食域を広げていく。その間家庭や医療機関と連携して栄養マネージメントを行うことがポイントだ。研修資料にはアレルギー対応マニュアルで使用した離乳食の解説書を添付した。

　最近、ファーストフードに対立する食のあり方として、スローフードということばがよく使われるようになった。ここで述べたアレルギー対応食は、実は、スローフードへの回帰そのものだ。アドムでは今後、スローフードとしての和食の調理方法を検討した献立の開発に力を入れていく予定である。

この研究の内容は平成１４年6月29日・30日の日本健康・栄養システム学会で発表する予定です。

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