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保存版 Q&A 塩化ビニールと環境ホルモン 2000/07/24

生物の生殖や発育への深刻な影響が懸念される環境ホルモン。雌では性成熟の遅れ、妊娠維持困難、 雄では精巣萎縮、精子減少などが報告されている。環境ホルモンはスイッチのようなもので 他の毒性に比べ極めて低い濃度で影響が現れる。その環境ホルモンが、食器や玩具から溶出することがあいついで確認されている。 環境ホルモンに対する知識を深めることはいまや保育者にとって必須の課題となった。

Q.塩ビ製品の問題について教えてください。

A.2000年6月14日付け厚生省生活衛生局食品化学課より、可塑剤としてフタル酸ジ(2−エチルへキシル)(DEHP)を 含有する塩化ビニル(PVC)製手袋からDEHPが給食作業中に溶出することを防ぐため、塩化ビニル製の手袋の使用を避ける様 に保育所に通知がありました。
( http://www.mhw.go.jp/houdou/1206/h0614-1_13.html )

 1998年9月には、ビスフェノールAが塩化ビニール製の人形や、乳幼児の歯がため、ホースなどから溶けだしてくることが、 国立環境研究所地域環境研究グループの山本貴士研究員らの研究でわかりました。ビスフェノールAは、生殖異変を引き起 こす内分泌かく乱科学物質(環境ホルモン)とされる70種の物質のうち、代表的な物のひとつに数えられているため、大きな社 会的問題になりました。この問題は当時新聞各誌で報道され、保育園でもこの時期は、ポリカーネート食器やおもちゃを廃棄 するなど、この問題に対応したことと思います。

 また最近では東京都の調査で食品の包装に使われるポリ塩化ビニール製ラップフィルムから環境ホルモンの一種である ノニルフェノールが検出され、加熱すると食品に溶け出す場合があることがわかりました。

 このように、最近塩ビ製品は環境ホルモンである物質を含んでいることがわかっています。また塩ビ製品には塩素が含まれており、 燃やすと環境ホルモンであるダイオキシンを発生する恐れがあるとして、次々と問題になっています。

Q.環境ホルモンとはなんですか。

A.環境ホルモンとは、本来の生体内ホルモンの働きを邪魔する化学物質です。ホルモンの本来の働きは内分泌器官から分泌され、 血液を通して特定の場所にいき、その場所(組織)の機能を調節することです。例えば、すい臓から分泌されている インスリンというホルモンは、ブドウ糖を筋肉や脂肪組織などの細胞の中に送り込む量の調節をしていますし、 副腎から分泌されるアドレナリンは血管や心臓の収縮を通じて血圧を調節しているといった具合です。 ところが、環境ホルモンは本来のホルモンより先に入り込んで邪魔をするのです。 そのために、体の様々な機能に障害がおこると言われています。


Q.環境ホルモンの人への影響を詳しく教えてください。

A.1996年3月、米国で出版されたシーアー・コルボーン博士らによる「奪われし未来」の中で内分泌をかく乱させる作用を 持つ化学物質が、人の健康影響や野生生物へ影響を与える可能性が指摘されました。この中で生態系に対する影響として 20数例の現象が紹介されています。人に対する影響としては、サリドマイドの例、合成女性ホルモンであるDESによる、 若い女性の膣ガンの例、精子の異常例など多くの事例が紹介されています。

 次に人の主要なホルモンの作用と過不足により、起こりうる疾患の例をあげます。

ホルモン名 部位 主な作用 分泌過剰 分泌不足
成長ホルモン 下垂体 成長の亢進 巨人症末・ 端肥大症 小人症
甲状腺ホルモン 甲状腺 代謝の亢進
知能・成長の調整
甲状腺機能亢進症(ハセドウ病) 甲状腺機能低下症
インシュリン すい臓 血糖の低下 低血糖症 高血糖症
副腎脂質ホルモン 副腎 代謝、免疫等の調節/ストレス反応 クッシング症候群 アジソン病
エストロジェン(女性ホルモン) 卵巣 女性化(月経・乳腺)/卵子の発育、排卵 子宮内膜症/膣がん、乳がん 不正出血/女性器の発育異常/月経不順
アンドロジェン (男性ホルモン) 精巣 男性化 卵巣の発育、精子合成 二次性徴の早期出現/男性器の発育異常/無精子症/睾丸性女性化症候群


Q.塩ビ製品と環境ホルモンの関係を教えてください。

A.塩ビ手袋の場合、可塑剤として添加された環境ホルモンであるフタル酸エステルが食品に溶け出しました。 塩ビから作られた人形やホースからは安定剤、坑酸化剤として添加された環境ホルモンであるビスフェノールA が溶け出しました。塩ビラップフィルムからは工業用の潤滑油や洗剤として使われた環境ホルモンであるノニル フェノールが食品に溶け出しました。このように塩ビが環境ホルモン物質を含むわけではなく(燃やした場合は 環境ホルモンであるダイオキシンを発生)、具体的な用途に必要とされる性質を得るために、 製造の段階で加えられた物質が環境ホルモンであった、というわけです。


Q.環境ホルモンの規制はどのように行われていますか

A. 環境ホルモンは1970年代から現在にいたるまでに、多くの物質が環境ホルモンとして認定され、 生産・輸入の禁止・中止が行われています。現在、環境ホルモンであるとして疑われている化学物質は、 国や調査している機関によって異なりますが、日本の環境庁では約70種としています。ほとんどの物についてはもともと 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」、「大気汚染防止法」や「水質汚濁防止法」等の多くの規制を受けています。

 使用禁止になっていなければ安全が保証されているというわけではありません。実際は体に害があるという科学的な知見 がないだけです。環境ホルモンについては今後の調査の過程でさらに増えていくことが予想されます。

 現時点では起こっている現象と化学物質の因果関係が必ずしもはっきりしていません。また疑われている物質が 本当に環境ホルモンであるか、ということについても、一部を除いてはあくまでも「仮説」ですので、私たちが規制に よって安心を得るまでには時間がかかるでしょう。または無理かもしれません。


Q.国の環境ホルモンに対する取り組みを教えてください。

A.対応方針については次のようになっています。

基本的考え方
・行政機関,学術研究機関、民間団体の連携による調査・研究の推進
・国際的な調査・研究協力及び情報ネットワークの強化

具体的な対応方針
・ 環境汚染の状況、野生動物への影響に関わる実態調査の推進
・ 試験研究及び技術開発の推進
・ 環境リスク評価、環境リスク管理及び情報提供の推進
・ 国際的ネットワーク強化のための努力


Q.具体的に、問題となった環境ホルモンは現在どうなっているのでしょうか。

  A.環境ホルモンの疑いがあるとされても、意外に規制されず、そのまま使われているのが現実です。

 ポリカーボネート製品(食器、哺乳瓶)の原材料となり、また安定剤、抗酸化剤として塩ビ製品に加えられる ビスフェノールAについて見てみましょう。これは1998年11月厚生省の"内分泌かく乱化学物質の健康影響に 関する検討会"で、「溶出するレベルの化学物質が人の健康に重大な影響を与えるという科学的な知見はなく、 現時点において使用禁止等の措置を講じる必要はない」とされました。

 フタル酸エステル類、ラップフィルムから溶け出したノニルフェノールについては、東京都によると、 主要メーカーは2000年2月以降、含有しない製品に切り替えているとのことで、使用禁止にはなっていません。

 フタル酸エステルについては、米食品医薬品局とEUの食料品に関する科学委員会によって、食品包装材への使用が 認可されており、また血液と輸血用品への使用が欧州薬局方で承認されているただひとつの柔軟性材料であり、 今までと変わりなく使用されています。

Q.環境ホルモンが私たちの健康に害があることがわかっているのに、塩ビ製品に使われるのはなぜですか。

A.国による規制がないことと、製造者責任が明確になっていないことでしょう。この種の規制や責任の明確化を反 対する勢力が大きいということかもしれません。マスコミ各社も大々的に報道しにくい事情があるかも知れません。 これまでばらまかれた環境ホルモンをどうするのかという問題が、国の責任や製造者責任をいっそう不明確にしています。

 塩ビ製品は、私たちの生活のいたるところで使われ、加工しやすく、安価で生活と密着した製品です。塩化ビニールは地下の 塩ビ管や雨とい、自動車のシート、ブリスタンバッグ、食品包装剤、血液、血しょう輸血用品などに利用されています。これらの 具体的な用途に必要とされる性質を獲得するために加えるのが環境ホルモンで、もし環境ホルモンを添加 しなければ、塩ビ製品は堅く不安定な状態で製品にならないというわけです。

 塩ビ製品の代替品となり得る品についても、具体的に必要とされる性質を獲得するために、たいていの場合、 添加物を使います。抗酸化剤、殺虫剤、殺菌剤、安定剤、染料、可塑剤などの他、紙、プラスチック(塩ビ以外)ペンキなどにも 使われています。

 エコロジー運動もいっそうこの問題を複雑にしています。ノニルフェノールを添加する行程をストップしても、 環境ホルモンが入り込んだ製品のリサイクルを行うと、製品に環境ホルモンが入り込むことをストップできません。 塩ビ製品のリサイクルを行い、環境問題に配慮しているという製造者の意識が、環境ホルモンの問題を相対的に 小さくしてしまっています。「環境ホルモンをこれ以上出さない」というあたりまえの倫理が国民に形成されていないのです。

 環境ホルモンの問題は30年以上も前にすでに報告されていた問題ですが、誰もがなんとなくこの問題を先送り してきてしまいました。環境ホルモンの問題は、次や次の世代につけをまわしているわけです。しかし、この問題はどこかで 着手しないと、時間とともにどんどん問題が大きくなっていきます。


Q:環境ホルモンの問題を考えると非常に悲観的になりますが。

A:はい。確かに状況は悲観的です。しかし、こどもたちの発育と健康に責任のある立場にある人間としては、 悲観的といって済まされる問題ではありません。環境ホルモンの問題の解決の糸口を見出すためには、結局、ひとりひ とりがこの問題が重大な問題であることを認識し、自分で考え、なんらかのアクションを起こすこと以外に方法はありません。

 ある保育園では、1998年塩ビ製品の人形、哺乳瓶が問題になった時点で、塩ビ製手袋、塩ビ製ラップについても 使用をやめました。その2年後、このたび厚生省から各施設に塩ビ手袋の食品への使用を避けることが望ましい との通知がありました。園長は「今ごろまで、子どもを預かる保育所で、ましてや給食で塩ビ製品を使っていた なんて信じられませんね。手袋を使わなくても調理はできるし、ラップについても、ポリエチレン製の製品もあるのに…。意識の 問題でしょうね。」と述べています。

 保育園にもこどもたちの安全を守り健康を守るという責任があります。例えば環境ホルモンを含まない食器を使用す ることは、高コストとなり、運営費を圧迫することがあるかもしれません。しかし、それは、保育園利用者に説明 すれば納得していただけることです。需要さえあれば企業は動きます。

 厚生省や自治体からの情報を頼りに行動していては、対応が遅れてしまうことがあることを認識し、子どもを取り巻く 全ての環境に対して注意をはらい、危険な物を排除し、安全なものを選んでいく姿勢が大切です。

 近年、私たちの身の回りには、環境ホルモン、遺伝子組換え食品、添加物など健康を脅かすものがたくさんありますが、 問題を提起するのは常に消費者です。遺伝子組換え食品では、厚生省が安全性評価の確認をおこなったトマトでも、 消費者に受け入れられないとして、商品化されていませんし、すでに13年度から表示が義務づけられたことで、 消費者の遺伝子組換え食品への監視が強化される結果となりました。消費者に受け入れられなければ商 品にならないのですから・・・・


参考ページ http://www2d.biglobe.ne.jp/~chem_env/home.html

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