子どもの「食の問題」の解決方法

こんにちは。子どもの食事研究所 所長の佐橋祐佳里です。

保育園では保護者から「食事」について相談されることが多くあります。

・ミルクばかり飲んで、離乳食が進まない
・食に興味がなく食べてくれない
・丸飲みで早食い
・好き嫌いが多い

子どもの心身の発達、成長のためには、子どもの個別の「食の問題」を、適切に捉えて、ひとつひとつ解決していく必要があります。

今回は、個別に抱えている問題に焦点をあてる「POS(問題志向型システム)」の記録様式である「SOAP」をご紹介します。(L.L.Weed考案)

下記の頭文字をとって「SOAP」と呼ばれ、医学教育現場で広くとりいれられています。

S :  subjective(主観的情報)
O :  objective(客観的データ)
A: assessment(評価)
P :  plan(計画)

「SOAP」では、特定の問題に対して、4つに分けて記録しながら、問題に対する解決策を導き出します。

 

■食の問題(problem)とは

保護者からの訴え、保育所職員の観察、成長の記録から得られた所見などで、「子どもの健康増進を阻害する事柄」が「問題」です。この問題には、経済的、社会的な問題も含まれます。

 

■基本情報の大切さ

子どもの個別の問題を効果的に解決するためには、基礎的な情報を把握することが大切です。

・年齢・性別
・家族構成
・保護者の就業状況
・生活状況・環境(住居など)
・家庭の経済状況
・アレルギー等の疾患の有無
・子どもの特性(性格・行動)

子どもの健康増進は、家庭との協働作業。家庭においても実践可能な計画を立てるためには、基本情報の把握が必須です。

 

■4つの記録(SOAP)

解決策を導き出すために4つに分けて記録します、

① S :  subjective(主観的データ)
保護者や保育所職員が提供する主観的な情報。どのような状況なのか!どんな変化があったのか!訴えをそのまま記録します。

② O :  objective(客観的データ)
身長・体重、口腔内の発達、嚥下・咀嚼機能の発達、問題に焦点をあてた客観的な観察、事実に基づく記録。また、実際に食べた食品や量を記録します(食事記録)。

③ A: assessment(評価)
S、Oの内容を統合、解釈、考察し、問題に対して総括的に評価します。
保育園で正しい解釈、判断できない場合は、適切な場所(医療機関)に委ねる必要があります。

④ P :  plan(計画)
Aに基づき、問題を解決するための予定や計画をたてます。

SOAPを実践すると、多くの人が、②の客観的データの収集が不足していたことに気づくことでしょう。

私自身、栄養士として働き始めた頃は、利用者さんや職員からの訴えに対してダイレクトに答えを出そうとして、本を読みあさり、結局解決できなかったことがたくさんあったように思います。

 

■O :  objective(客観的データ)の収集

主観的な「食べ過ぎる!全然食べない!」という訴えからは、実際に摂取しているエネルギーと栄養素(量)に問題があるかは全くわかりません。

また、体重・身長を測っても、推測できるのはエネルギー量だけ。有益なデータを得るためには、食べた物の栄養計算をして、実際の食事摂取状況を把握する必要があります。

「栄養計算ソフトわんぱくランチ」のユーザーなら、献立のコピー、分量変更機能を使えば、簡単に個人が給食で摂取した栄養価を計算できます。わんぱくランチを充分に活用して、正しい評価に繋げて頂きたいと思います。

客観的なデータの収集には労力がかかります。

こどもの食べ方を実際に観察にいくこと。摂取したものの栄養計算をして、子どもの栄養状態を把握すること。家庭ので状況を保護者から聞き取ることなど。しかし、これを丁寧に行い記録することで、みんなで情報を共有することができ、効果的な問題解決策を見つけることができます。

 

■「全く食べなくなってしまった」という保育士からの訴えに対して

私が、この「POS(問題志向型システム)」「SOAP」を学んで、最初に実践した時の記録です。

基本情報
・4歳男児
・家族4人(父・母・姉・本人)
・自閉症でこだわりが強い
・保育時間9時~15時
・家庭環境に問題はなし

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★ S :  subjective(主観的データ)
・1週間前から保育園で牛乳以外、何も食べなくなってしまった。食事に関心を持てずに、遊び続けていて、いつも一緒に食べている友達が呼びに行っても、席につかず食事を全くとってくれない。昨日は、好きなオレンジだけ、口に近づけたら食べてくれた。保護者に聞いたところ、家庭でもおにぎりしか食べなくなってしまって、保護者も大変心配している。(担任保育士)

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★ O :  objective(客観的データ)
・体重の急激な減少はない
・口腔内の問題はない
・友達との関わりの変化はない
・保育園での食事状況→牛乳(1日だけオレンジ40g摂取)
・家庭での食事は、朝8時30分、15時15分、17時の3回
・おにぎりの中におかずを詰めて摂取。
・エネルギーの栄養充足率92%程度、その他の栄養素についても80%以上、果物は毎食食べるため、ビタミンCは十分にとれている。

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★ A: assessment(評価)
・栄養摂取には問題はない。おかずに白いご飯をくっつけているような状態で提供しているため、必要な栄養は摂取できている。(栄養強化牛乳を摂取)
・園でも、家庭と同じ状況で提供すれば食べる可能性が高い。
・自閉症の子どもへの対応では、こだわりを強く否定せず環境を整えることが大切。

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★ P :  plan(計画)
・保育園でも家庭と同様に御飯に主菜、副菜を混ぜておにぎりにして提供。
・家庭では、「ごはん」を出して、食べない場合に「おにぎり」にする。

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この園児は、2か月後に、おばあちゃんが来て一緒に食事をした際に、「ごはん」を食べたことがきっかけとなり、園でも「ごはん」を食べることができるようになりました。

このケースでは、必要なエネルギー・栄養素(量)が摂取できていましたが、もし全く食べることができなくなっていることがわかったら、医療機関に相談し、適切な診断、指示の基で、家庭と協力しながら対応していく必要があります。

小さな子どもにとっての栄養状態の悪化は、免疫力低下、感染症のリスクもあがり、命に関わることもあります。

客観的な情報の収集は、適切な医療との連携にもつながります。

 

■さいごに

SOAPのように、問題に対して解決までの一連の思考、行動の流れを記録すると、最後はおおよそ「基本的なこと」が解決策となります。

・からだを動かしてしっかり外で遊ぶこと
・早くねること
・砂糖、脂肪が多いものは食べ過ぎない
・いろいろなものを食べる
・落ち着ついて食事ができる環境を整える
・子どもの発達段階に合わせた食事を提供する
など・・・。

しかし、記録により情報が共有できるため、その実践効果は格段にアップ。また、個人の主観的、独断的な考えに流されることなく、正しい方向に向かって行動ができます。

子どもの健康を阻害する要因は数多くあります。子どもの未来のために、ひとつひとつ丁寧に向き合って対応していきたいと思います。